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2017-10-17 09:27:53
お客様とは一定の距離を保ちたい普段は淡々とした営業担当。
そんな営業の口から出たひとことが、お客様の揺れ動く心を射止めたお話です。




犬を連れたご夫婦が現地見学会にやってきた。
犬の散歩コースで偶然見かけた売り出し物件が以前から気になっていたというお客様。すでに半年ほど新居を探しているという。

ゆったり余裕のある大きめな2階建て。吹き抜けがあったりキッチン周りがピアノ塗装を施されていたりと売主のこだわりをいたるところに感じられる物件だ。
その優雅な内装を見たご夫婦、とりわけ奥様は水廻りやキッチンをとても気に入られた様子だった。

現在の住まいから近い場所で探していたご夫婦。そのエリアにはあまり物件は出ない。
なによりも営業として、これ以上のオススメ物件は他にないと断言できるほどの良い物件だった。


それでも他の物件も見てみたいという理由で、すぐにお申し込みとはならなかった。
しかし、私が思ったとおり周辺エリアでお客様の希望に叶う物件は見つかることがなく、1ヶ月後には無事お申し込みしていただけることになった。

物件申込書を書いている時に、契約日は「忙しいので来週末に。」というお客様からの要望があった。
海外を飛び回ることもあり、遅い時間に帰宅する毎日が続いているらしい。

だが、1週間というのは頭の中を整理するには実に長すぎる。営業的に早く契約が欲しいというわけではなく、お客様の不安が増幅されたり新たな悩みが生まれたりするからだ。そんな私の不安は、的中することになる。


契約の当日。10時過ぎに、お客様から電話が入った。来店時間の変更連絡かと思ったが、そうではなかった。

「今日の契約、やめたいんです。」

申し訳なさそうに話すお客様。動揺を悟られまいとする私。
上司に相談した結果、理由を伺いたかったので店までご足労いただくことにした。
30分もするとご主人が一人で来店された。若かった私は営業担当ではあるものの、事情が事情なだけにその場は上司に任せることになった。

30分だろうか1時間だっただろうか。私は上司の横で、ただただ黙ってお客様と上司の会話を聞いていた。

先日、物件申込書を記入したその日以降、他社へ断りの連絡を入れたというお客様。そのうちの1社から、それまで紹介のなかった未公開物件でアプローチがあったという。
資料もできていない未公開物件はこんな感じだった。

“現在お住まいの場所から近い”
“奥まってはいるが角地”
“3階建て”
“秘蔵の未公開物件”

その物件場所を地図で確認したとき(あぁ、ここかぁ・・・)と心の中で呟いた。よく知っている場所だ。

「未公開中の未公開。お客様にはじめてご紹介する物件です。」

きっとそんな魅惑的なセールストークを告げられたのだろう。古い家屋の取り壊しも済んでいない、新しい物件の間取りも計画段階のものを秘蔵っぽく出してきたにちがいない。
なによりも、お客様を悩ませてしまった一番の原因は、契約までの一週間という時間だ。


上司はお客様の悩みを受け止めつつも、見学した物件との比較を説明しながら会話を進めていた。が、ついに私は黙って聞いていられなくなった。

「お客様には、こっちの家に住んで欲しいんです!」

心から出た言葉だった。秘蔵の未公開物件は私の住まいから目と鼻の先、まさに地元だった。
間取り・広さ・立地・周辺環境・治安など不動産屋の目を持っていれば、どちらにアドバンテージがあるかは明らかだった。
それと同時に、なぜかキッチンや水廻りに惚れ込んでいた奥様の表情が頭の中に浮かんできた。突然出た私の言葉には、お客様より上司が驚いていた。

「そうだよな・・・」

そうつぶやくと、お客様は腕を組み考え込んだ。しばらくすると意を決したのか、お客様は携帯電話を取り出してどこかに電話を入れた。

「やっぱり、あの2階建の物件を契約するよ。君が気に入っていた家だ。」

電話の向こう側が誰なのかすぐにわかる会話だった。あまり多くを語らずに電話を済ませると、お客様の求めですぐに契約書の作成に取り掛かった。

契約を済ませたお客様をお見送りすると、上司が私にひとこと言った。

「さっきの言葉、熱かったな。」

普段、淡々とした私からは想像できない熱い言葉に、上司は驚いたという。

「さぁ、昼飯行くぞ。」

気付けば、14時近くになっていた。


お客様のこころを動かした瞬間

自分はどちらかといえばお客様に深入りせず、一定の距離を保っていたいタイプだ。
それなのに、自分の言葉がお客様の心に届いたことに自身のことながら少し驚きもある。

その後、お客様とは特別なお付き合いはないが、近所ということもあり愛犬と散歩するご夫婦をお見かけすることがある。

その度に思うことがある。

「心から正しいと思うことは遠慮せずに伝えていこう。」

2017-10-10 11:02:25
かつての“かっこつけ営業マン”が担当したのは、後輩が投げ出したお客様。
人間味のある接客を心がける営業担当が、“連絡が取れない”“期限までに返事がない”など
放埓なお客様に様々な思いを感じながらも成約に導いた営業のお話です。




入社以降、努力しなくてもノルマをこなす“できる新人営業”だった私は、営業を甘く考え天狗になっていた。
そんな私が3年目のスランプに陥ったとき、上司からの言葉が胸に刺さった。

「ここは上場企業じゃない。かっこつけてんじゃねぇの?」

確かにその頃の自分は、雰囲気をなごませるために天気の話や共通の話題を探すことが不毛に思え、物件を丁寧にプレゼンするだけの人間味のないクールを気取った“かっこつけ営業マン”になっていた。

上司の指摘に気づかされた私は、表情や感情が豊かな人間味のある接客を心掛けた。
お客様と子育てや趣味の話などをするようになり、以前なら不毛と思っていたトークが物件のプレゼンより熱が入ることも多くなった。

自分を表現できるようになった私は、まるで別人に見えたかもしれない。
上司や先輩だけでなく、困っている同僚や後輩といった周囲の人へ気使いができるようになった。
その年の忘年会、全社員の前で芸を披露する私の豹変ぶりに、周囲のビックリした表情を今でもハッキリ覚えている。

以前のような成績重視の売りたい願望が薄れ、お客様の立場に寄り添えるようになった私。
それからは、特別なことを一切しなくてもコンスタントにお客様と成約を続けられている。
ある年は、全社の年間トップセールスに輝いたこともあった。感情を表に出す人間味のある接客を心掛けているだけだ。そんな私に、あるお客様が巡ってきた。


とにかく連絡が取れないという理由で後輩営業がお手上げになったお客様。担当が変わることを伝えるためお客様の携帯に電話した。

(もう物件探しはしてないかな・・・後輩と同じように電話に出ないかも・・・)

そんなことを思いながら呼び出し音を鳴らし続けた。

「はい・・・」

さすがに知らない番号からの電話に出たお客様の第一声は怪訝そうだった。
営業担当が変わったことを伝え、物件を探し続けていることは確認できたが、お客様との会話の中から物件購入への熱が伝わってこないことが気になった。

タイミングがいい時だけ電話に出る。折り返しの電話は滅多にない。
いつも淡々とした言葉を返してくる。それでも諦めずにまた電話する。
かつての“かっこつけ営業マン”なら、購入の熱意が感じられないこのお客様を後輩と同じように投げ出していただろう。
粘り強く数回の通話を重ねた後に、希望に近い土地やモデルルームを案内することができた。最初の電話から約二週間後には申し込み。そこまでは順調だった。


購入申込書を記入している時に、お客様から要望があった。
それは“契約に必要な手付け金の段取りが出来たら連絡するので契約日は空白にしてほしい”というものだった。

(今晩・・・遅くとも明日には連絡がくるだろう・・・)

そう軽く考え「連絡をお待ちしています。」と伝えてお客様と別れたが、その甘い判断により何とも落ち着かない時間を過ごすことになる。

申し込みがおこなわれた当日は電話が鳴らず、その翌日も連絡が入らない。二度、三度と時間をあけて連絡したもののお客様は電話に出てくれない。
携帯電話だけでなく、ご自宅に電話して奥様に言付けもお願いしたが返信はない。

(興味が失せたのなら、それも仕方ない・・・)

そんな気持ちでお客様のご自宅に伺うことにした。ご主人が帰宅されていると思われる時間に伺ったが、応対してくれたのは奥様だった。
契約日の連絡を待っていることを伝えると、その翌日に「週末に契約します。」とたった一言の連絡がご主人から入った。


契約は無事に完了したが、更地に新居を建てて物件引き渡しまでの約半年間は同じように連絡が取れないことが続き、放埓さはさらに増していった。

電話よりメールでの連絡を好むお客様。住宅ローンの決済に関する大事な話もメールで済ませようとしたことには驚いた。
また、売主様と直接メールしていたことも判明。売主様から「注文多いし細かいお客様だね。」と聞かされ、苦笑いするしかなかった。

物件が完成して引き渡し後、他のお客様と同じように住み心地や様子を伺う連絡を何度か入れてみたが音信不通。
このお客様に限っては“連絡がないことは問題が起こっていないこと”と思うようにしている。



寄り添う営業を望まぬお客様もいる

人生の基点となる大きな買い物をするとき、ほとんどのお客様が悩みや不安を抱えている。
それを拭い去るのが私の仕事であり、そこにやりがいを感じる。

“お客様にとって、私は家を買うための雑務を処理する事務担当なのか?”

そんなことを考えさせられたこのお客様は、“私のやりがい”を望んでいなかったのだろう。
私にはちょっと物足りなさと寂しさを感じたが、「すべてのお客様が望んでいるわけじゃない。」と思えば自分もいい経験になったし、何よりも投げ出した後輩にもいい見本になったと思う。

2017-10-02 19:49:48
ドライブデートの途中に立ち寄ったカップル
新居を探しているとは思えないファッションに誰もがそう見えてしまう。
見た目で判断されてきたお客様と見た目で判断しなかった営業のお話です。




8月の現地見学会でのこと。黒くて大きなアメリカ車に乗った二人組がふらっとやってきた。

「見れる?」

ぶっきらぼうに尋ねてきた男性の出で立ちは、タンクトップにショートパンツ。全身真っ黒に日焼けしてサングラス。
今でいうオラオラ系だ。いっしょにいる20代と思わしき女性もなかなか個性的なファッションだ。

誰がどう見てもドライブデートの途中に立ち寄ったカップルであり、夫婦ではないことが雰囲気でわかる。
そんなふたりを見た目で判断すれば、お客様となる可能性は“ゼロ”だ。でも、それは私のモットーとは異なる。
見た目には惑わされず、いつもと変わらない接客を心がけた。


カップルを物件の中に案内するとふたりの表情は一変する。楽しそうではあるが浮ついた会話ではなく、物件を見ている眼差しは真剣そのものだった。

聞けば、もう半年くらいドライブ中に気になる物件があると見学しているという。お互いに結婚の話もしているが、きっかけがわからずに一歩前に踏み出せないという。
そんなことまで聞かせてくれたので、私の結婚したきっかけなどを話すとカップルは耳を傾けてくれた。

その男性がひとりになった時にさりげなく尋ねてみると、新居の購入を結婚のきっかけにしたいという。
いっしょに来場した彼女とは少し年齢差があり、新居を購入することで彼女のご両親を安心させたいと考えていることまで話してくれた。

結局、その物件は希望の条件と離れているということで進展することはなかった。

「あんたに知り合えてよかったよ。また、よろしく。」

そう言って、カップルは大きな車で去っていった。


秋も深くなった11月のある日。その男性から電話が入った。それまでの約3ヶ月、何度か物件について電話で話すことはあったが、物件資料を求められたり案内したりすることもなかった。
だが、いつもの電話とは違って、いきなり本題から切り出してきた。

「おたくが紹介してくれた物件じゃないけど、扱える?」

それは他社が管理する物件だった。男性から伝えられた連絡先は、覚えのあるものだった。そこは直販物件を扱う不動産業社だ。
仲介が入り込めるか疑問だったが、ひとまず物件を確認するために電話をすることにした。

「当社の物件は直接販売だけであり、他社が仲介に入ることは無理です。」

そんな感じの返答だった。そもそも、その物件の見学会でお客様を担当した営業がおり、そこに他社の営業が仲介するのは道義に反しているではないかという。全くごもっともな話である。

そのことを男性に伝えると「わかった。」とひとこと言って電話を切った。しかし、数分後にその男性は再び電話をしてきた。

「向こうの会社と話ついたから。向こうの担当に電話して。」

少し強引な話だが、その男性は“ハウスプラザの私から気に入った物件を買いたい”と直接販売の不動産会社を押し切り、話をつけてくれていた。

どうやら、自分を客として接してこない不動産会社の営業担当が気に食わなかったので、その営業担当から直接買いたくない。
決して安くはない仲介料を私に払ってでも、きちんと向き合ってくれた私から気に入った物件を手に入れたいということだった。


その男性は、小さな貿易会社ではあるが営業・仕入れ・資金計画をひとりでこなす立派な会社員だった。
もちろん収入も信用もあり住宅ローンの審査も難なく通過するなど、契約から引き渡しまで問題が起こることはなかった。

「ちゃんと客として扱ってくれただろ。それに報いたかっただけだよ。」

物件申込書を記入しながらそう語った男性の人情深さは、そこで終わることはなかった。
物件の購入をきっかけに結婚したという奥様の妹さん夫婦が新居を探していると知れば、その男性は私を紹介してくれて契約することができた。知人や友人を紹介してくれたこともある。

今でも夫婦仲良くドライブデートしている。その途中に、現地見学会の私を見かけるたびに大きな声で呼びかけてくれる。

「元気してる?今度、友達連れてくるからよろしく頼むよ。」


蔑んだ目で見る営業もいた

どんなに真剣に物件を探していても見た目で判断されてしまい、まともな商談にならなかった。どこか蔑んだ目で見ている・・・そんな印象の営業ばかりだったという。
そんな中で、お客様として真摯に応対したのは私だけだったらしい。

“人は見た目が9割”ともいうが、外見や身なりでお客様を判断しないという私なりのモットーが間違っていないことを証明してくれたお客様だった。

2017-09-26 12:24:07
「いち早くお客様に、いい情報を届けたい・・・」
そう思いながら20年以上、こだわりのチラシを手作りしている。
見た目の厳つさからポスティングに活路を見出したベテラン営業のお話です。




「自分でチラシを作成して、自分の足でご家庭のポストへ投函する。」

私は“ポスティング”に強いこだわりを持っている。それは綺麗に印刷された新聞折り込みチラシのようなものではなく、素人が作ったものとひと目でわかるチラシを投函する作業だ。

その数は、1回あたり500〜1,000枚。年間で10,000枚以上、多いときは20,000枚近くにもなる。
そして、そのチラシをきっかけに購入していただけるのは1〜2件。過去に多くても5件ほど。
結構、地道で大変な作業だ。それでも他の営業が嫌がるポスティングをひたすら続けた。


そんな“ポスティング”に情熱を傾けるようになったのには、ちょっとした理由がある。
“いかつくて怖く見られるので、お客様が近寄り難い”と私自身が感じているからだ。
過去にファミリーレストランでお客様とお話をしていた際、周りから不審の目を向けられたのをよく覚えている。きっと悪徳商売の営業に勘違いされたのだろう。
それくらいコンプレックスを抱えている。

また、その外見の判断は現地見学会で顕著に現れる。お客様から声をかけてくることが極端に少なく、それは物件契約数にも影響してくる。
これをカバーするために、やわらかい見た目を作るためにメガネをかけてみたり、なるべく親しみやすい印象をもってもらえるようにひと一倍気を使ったり、優しい声で話しかけたりできる努力をやってみた。

しかし、そんな努力が報いられるほど甘くないのが不動産業界。そこで同僚の営業よりも圧倒的に少ないファーストコンタクトを補うことを考えた。
お客様がお店や見学会へ足を運ばなくても、いい物件の最新情報を伝えることができることが“ポスティング”だった。
それは私にとって最適なもので、いきなり顔を合わせる必要がない。私はお客様へのアプローチ方法として“ポスティング”を繰り返し行うようになった。


チラシを作りはじめたのは、1990年代前半。携帯電話やインターネットが一般に普及していないどころかパソコンすら貴重な存在だった“ワープロ全盛期”だ。

業者によって製版された綺麗なチラシを新聞折り込みで配布するのは、かなりのコストがかかる割に成約率はあまり高く無い。
そこで、ワープロで打ち出した文字や現像された写真を切り貼りしてB5のチラシを自分で作り、それを大量に白黒でコピーして自分の足でポスティングした。

20年以上経った今もその作業をずっと続けている。だからB5サイズに物件情報を収めることには誰にも負けない自信がある。
ただし、A4やB4サイズとちょっと大きくなっただけで物件情報とデザイン性がまったくバランスの取れないダメなチラシになってしまうことから「B5の魔術師」と上司から揶揄されることもあった。


この“顔の見えないアプローチ方法”の成果が現れるまでには6〜7年かかった。そして、地道に積み重ねたノウハウにより、取り立てて変わった事をせずとも気付けば営業ノルマもコンスタントに達成できるようにもなった。

成果を得られた私は、さらに精度を上げるチラシ作りに励むようになった。見た目の美しさといったデザイン性だけでなく、お客様の心に響かせるため、3つのポイントにこだわってチラシを作っている。

物件の特徴を簡潔に伝えるために“見出しは3つ”と決め、物件情報を“シンプル”に紹介することで伝わりやすくなる。そして、なによりも新着情報が入ったらすぐにお客様に届ける“スピード”が一番重要だと思っている。


こだわり続けてきたポスティングチラシ。新聞折り込みで20,000枚配布しても反響の無い物件も、今の私なら500枚の配布で反響を作り出す自信がある。そんなノウハウも身についた。

当初は営業としての生き抜く術であったが、今では“いち早くお客様にいい情報を届けたい”という情熱に変わっている。

すべてはお客様のため

「はじめ見たとき、騙されるんじゃないかと思いました。」

ほとんどのお客様が冗談を交えて私の見た目を表現する。今ではファミリーレストランでローンの説明をしながら、自ら「金融関係の人に迫られているみたいですよね。」なんて自虐的に笑いを誘うこともさえある。

はじめのハードルさえ越えてしまえば、お客様は物件だけでなく私との出会いにも満足していただいている。
私もそんなお客様との出会いの機会を増やしたくて、鮮度抜群の物件情報を誰よりも早くお届けするよう心がけている。

“この物件をどこかで待っている人がいる・・・”

そんなことを想像しながら、今日も自分の手と足でポスティングに励んでいる。

2017-09-18 12:13:40
“あいさつまわり”と思えばいい。
上司からの指示で行った飛び込みで、
お客様の夢を叶えた営業のお話です。




ノルマを達成できないどころか、商談もうまく運べなくなっていた入社3年目の冬。
少し後ろ向きの姿勢になっていた私を見兼ねた上司からの指示だった。

「駅近くの社宅。再開発で取り壊しになるから、挨拶まわりに行ってきなさい。」

いわゆる“飛び込み営業”だ。現地見学会や店舗での商談ばかりだった私は、「どうせ結果は出ないし、嫌がられるだけじゃないか。」という気持ちから、とにかく“飛び込み営業”をやりたくなかった。

指示された社宅は、誰もが知っている大企業のもので、100軒近い世帯が入る大きさ。その大きさに嫌気がさしたが、“上司から指示されたから”くらいの気持ちで社宅へ向かった。


家事の邪魔にならない頃合いを見計らって、一軒一軒インターホンを鳴らしてまわった。2月の寒い夜だけに、ドアが開くことはほとんどない。

「こんばんは。ハウスプラザです。夜分、すみません。近くに物件が出たのでご紹介に・・・。」

不動産の営業とわかるとインターホンはすぐに切られてしまう。こんな感じで3日後にはすべてを回りきった。
半数はすでに退去済み。残りのほとんどは、まともに話を聞いてもらえなかったが、それでも4軒から物件資料の依頼があった。

(上司のしたり顔が目に浮かぶな・・・)

すべての報告を上司にすると「言った通りだろ?」と得意そうに笑みを浮かべていた。


引き合いのあった4軒も話を詰めていくと、2軒が減り、1軒は現地見学会で応対した同僚が営業担当として商談。一週間ほどで残りは1軒になった。

1回の商談で長時間話すよりも会う回数を重ねたかった私は、最初の挨拶と同じ家事の落ち着いたころに4度目の訪問を行った。
毎回玄関先で立ち話してくれるのは奥様だった。

「ここ、取り壊しになるそうですね。」

初めてそのことに触れると、奥様は堰を切ったように語りはじめる。

「ふたりの小学生の女の子と幼稚園に通う男の子がいるんですよ。」
「新しい社宅もあるけど、子供がいるから学区から出たくない。」
「姉妹でひと部屋使っているから、息子がね・・・」
「主人は乗り気ではなさそうだけど、否定もしないんですよね。」

そんな奥様からは、真剣に検討していること、新築への憧れなどが伝わってきた。
そこで内見を勧めてみると、まずは奥様だけを平日にご案内することが決まった。


はじめて明るい時間にお会いした奥様は、薄ら暗い玄関先とは違っていた。
部屋の明るさや天井の高さなど、資料から読み取れない情報を内見でひとつひとつ確認していくその姿はとても意欲的だった。

「この物件、内装をカラーセレクトができるんですよ。」

それを耳にした奥様は、ワントーン上がった声で反応した。

「へぇ〜、自分で選べるんですか!?いいですね。」

そう言うと、リビングは・・・キッチンは・・・子供部屋は・・・と呟きながら、それぞれの内装イメージを膨らませていたようだった。
きっと奥様の中の夢が大きく膨らんだ瞬間だったに違いない。

その週末に、あらためて家族5人で内見を行った。奥様からひとりで内見した感想を聞いていたご主人は、「家族の意見を尊重します。」と言っている。
そして、3人のお子様と奥様の喜ぶ姿を見てご主人は腹を決めたようだ。

「来週末、実家に行って両親に報告してきます。契約の話は戻ってから。」

私にそう伝えたご主人の横にいた奥様は、あと少しで夢が叶うという喜びが溢れんばかりの表情だ。
私はご両親用の資料を作成してお届けする旨を伝えて、その日の内見は終了した。

ご家族の夢、とくに奥様の夢をサポートするつもりでご主人の両親が安心納得できる資料作りに励んだ。
物件資料やローンの資料だけでなく、大学や病院などの優れた生活環境もしっかりとアピール。
ご両親の資料は文字を大きく見やすく工夫して、家族5人で内見した翌日いつもの時間帯にお客様の元へお届けした。


ご実家から戻った翌日の午前中に、奥様から「ご両親も応援してくださることになった。」という報告の電話が入った。

「私、娘たちと一緒で、子供の頃は姉と一緒の部屋だったんです。自分だけの部屋にずっと憧れていました。だから、いつか自分の子供たちには部屋を・・・って思っていたんです。でも、ちょっと贅沢かなぁ。早いかなぁ。」

新たな悩みのようにも聞こえるが、その声には明るさがあった。

“夢を叶えるサポート”に徹した営業

いつも玄関のドアノブを背中に感じながら“奥様の夢を叶えるサポート”に
徹した控えめな営業が良かったのかもしれない。

積極的にガンガン攻めるのが苦手な性格で、“飛び込み営業”は本当にやりたくなかった当時の私。
でも、営業としての幅が広がったこの時のことを忘れないために、今では自分の意思で年に数回“挨拶まわり”と称して飛び込み営業を行うようにしている。

2017-09-11 12:00:36
15年間物件を探し続けたお客様
その長い物件探しには、16歳の少年を中心とした家族の思いやりがあった。
先輩が成し得なかった契約にたどり着いた若手営業のお話です。




「もう何年も前からハウスプラザさんにお世話になっています。」

女の子を連れたご夫婦は物件を見学しながらそう伝えてきた。ひと通り眺めると「これも違うな」とご主人が呟いた。

周辺物件も紹介したが、どれも響かず、見学済みの物件もあったほどだ。さすがに長年探しているだけあって物件に詳しい。
入社2年目の若手営業である私は、お客様に熱意を感じ「条件に見合う物件を探しますので、ご提案させてください。」と伝えると、これだけは守って欲しいと念を押された。

「投函と訪問は絶対にしないでください。」

翌日、そのことを上司に報告すると「あぁ、そのお客さんか・・・」と少し訝しげな表情になり話してくれた。
4人の営業が担当したこと。15年は探し続けていること。投函・訪問をさせない上司の見解などなど・・・。

それでも「やってみなさい。」という上司の言葉が励みになった。


じっくり探しているだけあってお客様の物件を見る目は高く、とても手厳しい条件だ。地域、間取り、広さ、部屋数など。
こだわりの強い条件がおさまる物件は、なかなか見つからない。なかでも、部屋数は年月を重ねるたびに譲れない条件になったという。

2DKの社宅にお住まいというお客様は、ご夫婦、高校1年生で16歳の長男、中学2年生の次男、小学3年生の長女、一緒にいた1年生の末娘という6人家族。

物件探しが長くなってしまったのは、金利や物価の影響もあるが“子育てに追われてしまったことが一番大きな理由”と家族構成を話しながら教えてくれた。

そして「投函と訪問は絶対にしないでください。」という理由も明かしてくれた。

「2〜3年前まで、家族6人で家を探していたんです。新しい家、自分だけの部屋を目にした子供は大喜びしますよね。でも、条件面など折り合いがつかなくて・・・。とくに上の子は物心もついていたので、何度もガッカリさせてきました。もう、そんな思いをさせたくないんです。」

“子供に不動産を探していることを知られたくない親心”だった。

そのふたつのことを上司に報告すると「わかった。いっしょに提案しよう。」となり、最適な物件を探し出してくれた。少し小さめではあるが、お客様の条件にかなり近い物件だ。

その物件にお客様を案内すると案の定「少し小さいかな・・・」という言葉。しかし、それ以外の条件を全ておさえている。もちろん、こだわりの部屋数もだ。

しばらく考え込むお客様を私はじっと見守った。物件探しのベテランに2年目の若手営業が口を挟む余地などない。

(周辺土地価格の上昇、低金利、条件との照らし合わせ、そんなことを考えているんだろう)

やがてお客様から「ここにします。」の声が聞かれ、申し込みの手続きへと進むことになった。しかし、一つ頼みがあるという。

「契約前にもう一度見せて欲しい。息子たちを連れて来たい。」

もちろん異論などない。


契約前の見学会に、初めて家族6人全員が揃った。スレた感じのない素直そうな16歳の少年は、目の前の新しい家を「どうせ、まただろ・・・」という疑いの眼差しで眺めている。

「自分の部屋ができるね。」

そう語りかけても、反応はイマイチ。過去のこともある。でも本当にそうなるかもしれない。16歳の少年では、うまく表現できないこともある。自分もそうだった。それが思春期だ。

「今度は、間違いないと思うよ。」

契約など解るはずもない16歳の少年は半信半疑だったに違いない。


申し込み以降は、順調だった。ご夫婦の間では、申し込みの時点で契約する決心はできていた。
ただ、物件を見ていない4人の子供への道理と、家族全員で決める機会を設けたかったという。
それを物件引渡し一週間前の内覧会で話してくれた。そして、内覧会には16歳の少年もやってきた。

「自分だけの部屋、うれしいでしょ?」
「ええ、まぁ、うん・・・」

思春期らしい反応だ。自分が高校生だった頃を思い出す。

「僕もね、自分の部屋に友だちが来た時はうれしかったな。はじめて彼女が来た時はね、すっごく緊張したんだよ。」

そう伝えると、少年の表情が少し緩んだ。しばらくして、自分の部屋となる場所で、ひとりっきりの少年を見かけた。

声を押し殺しなから、満面の笑みで喜びを爆発させていたように見えた。

近い未来の自分を想像していたのかもしれない。

はじめの苦労が身を結んだのかも

あの時に上司から「やってみなさい。」と励まされなかったら、
変に経験を積んで出会っていたら、
同じような接客はできなかったかもしれない。
入社からしばらく実績を作れなかった苦い経験が、諦めない営業につながったと思う。

今もその営業スタイルを守り続けている。

2017-09-04 12:04:36
面倒は大嫌い。だけど頼られたら断れない・・・
そんな性格が親族間の問題にまで切り込んでいく。
「買わないなんて言わせない」と言い放ったのはなぜか。
お客様の人生を背負うつもりで接客する営業のお話です。




ある水曜日。会社は定休日だが、お客様が望めば休日出勤くらいなんてことはない。それが営業だ。
先日の日曜日、現地見学会に訪れた奥様が物件を気に入ってくれた。当然、ご主人にも見ていただかないと話は進まない。そこで、今日二度目の見学会を行うことになった。
一度見学を済ませている奥様がご主人に物件を説明する。この家での生活を思い浮かべているのだろうか。「いいね」とたまに振り返る幸せそうなご夫婦の空間から自分は少し距離をあけていた。

数日後、ご主人から「申し込みの手続きをしたい」という連絡が入った。アポイントは水曜日だ。

申し込み手続きまでの二週間は順調だったが、そこから契約への進展が見えずさらに二週間。奥様と出会ってからもう1ヶ月が経過している。何か問題でも起こったのだろうか。
電話をかけて軽く探りを入れると、物件購入という大きなものを背負うことの躊躇ではなさそうだ。条件面で悩んでいるわけでもない。購入への意欲は変わっていない。理由が知りたかった自分は、「すべて話したい」というご夫婦からの申し出によりご自宅で話を伺うことになった。

ドアを開けたご主人。「良くない話が出るな」と察知できる表情だった。
「物件の契約ですが、お断りしなくてはならなくなりました。本当にすみません。」
今まで嬉しそうに、幸せそうに物件を見学していたご夫婦。断りの理由を伺うと、ご主人の親御さんとの間で問題が起こったという。

ご主人曰く、親御さんの言い分はこうだ。
“家業を継がせたい親御さんは、長男夫婦がいつか帰ってくることを願っていた。親元で何不自由ない生活する方が幸せだろう。”
それが遠く離れた東京に家を買えば、親御さんが描いていた未来予想図が崩れ去る。どうしても家を買うことを諦めさせたい親御さんは必死だ。片道3時間かけて伝えにきたというから相当だ。

「お前たちに、家なんて買えるわけがない。」
「ムリムリ。苦労するだけだ。」
エスカレートすると矛先は奥様に。
「あなたが言い出したんでしょ。」
「息子に無理させてない?」
「もうずいぶん実家に顔を出してないね。」
「孫の顔が見たいねぇ。」

物件購入とは関係ないこと、もっと酷なことも言われたという。辛辣な言葉を浴び、精神的に追い込まれた奥様は寝込んでしまった。奥様のそんな姿にいたたまれずご主人は家を諦めることにしたらしい。


「事情はわかりました。でも、それで解決しますか?誰が幸せになりますか?」
諦めようとしているご夫婦の姿に、自分の中のプライドと意地に火がついた。包み隠さず話してくれたご夫婦に、ここまできたら言いたいことを言わせてくれという気持ちで自分の理論をぶつけた。

「物件を諦めれば、問題は治る。でも、諦めさせられたことが根深く残り、親御さんとご夫婦の間に大きなシコリができる。シコリになるなら幸せになる方を選ぶべき。そして、奥様にシコリを作っちゃ駄目だ。ご主人と親御さんの間の揉めごとならば必ず元に戻る。血の繋がった親子だから。」

自分は、そう思っている。そして、もうひとこと付け加えた。
「買わないなんて言わせない。」
もし買わなかったら、誰も幸せにならない。必死に耐えてきた奥様と必死に奥様を守るご主人。ふたりには幸せになってほしかった。

しばらく下を向いて自分の考えを整理していたご主人が口を開いた。
「わかりました。ふたりの幸せのため、親との関係・・・」
ご主人の覚悟が見えた。でも、とんでもない勘違いにご主人の話を遮った。
「そういう考えで、買ってほしくない。家は幸せになるために買うもの。ふたりが幸せになれば、親御さんも喜ぶでしょ。だって、親だもの。子供の幸せを願うのが親の幸せじゃないですか。もし縁を切ったら、親の幸せを子供が奪うことになりますよ。」

熱意が伝わったのか、ご主人の涙腺が緩んだ。奥様を必死に守ろうとした男気のあるかっこいいご主人だ。
その後もプライドと意地に火がついたままの自分は、親御さんに会って説得してやると意気込んだが、さすがに断られた。


それから4日後の日曜日。物件契約にやってきたご夫婦の表情は、晴れ晴れとしていた。ご夫婦は自分たちの思いを伝えることができ、親御さんは描いていた未来予想図を捨てて、「困ったことがあったら、なんでも言いなさい。」とふたりの幸せを尊重してくれたそうだ。


面倒は嫌いだけど、やめられない。
自分は人が好きだ。お客様の人生を背負うつもりでやっている。
不動産営業でありながら、物件にはあまり興味がない。
興味あるのは、お客様の人生とその大きな転機。
頼られたら断れない性格だから、面倒なことの多い不動産営業がやめられない。

2017-08-28 12:15:40
物件を探し続け、冴えない表情のまま契約した“お客様”。
どうして?と問いたくなる、本質に触れなかったのはなぜか。
他とは違う自分のスタイルを貫いた営業のお話です。




出会ったのは、現地見学会。ハウスプラザの看板であることを確認してやってきたらしい。
長く物件を探しているというだけあって、間取りや設備にも詳しい。
私の名刺に記された宅建資格や他の資格についてまで質問が及ぶ。
とにかく、物件購入への熱意を感じた。それがお客様の第一印象だ。

「あっ、そのお客さんですか・・・」

店に戻ると同僚の営業が、のちに“お客様”となるその方の接客経験について話しはじめた。

“今まで何人もの営業が接触しており、申し込みの段階になると色々言い訳をしてははぐらかされる。買う気のない冷やかしなんかじゃないかな。”

まとめるとこんな感じだ。でも、私の中には同僚とまったく違う印象と、なによりも手応えに自信があった。

(時間を割いてまで現地見学会に来ている。買う気があるに違いない!)

そう思うと同時に、お客様をそう見ている同僚を見返してやりたいという私なりの意地やプライドもあった。


同僚からのアドバイスに対して「見返してやりたい」と思う私は、どこか他の営業とは違っている。
“お客様”の定義もそのひとつだ。契約してからが私の“お客様”であり、それまでは“興味ある人”という定義だ。

得体の知れないテーマパーク(物件)があったとする。そのテーマパークに興味ある人に対して設備や魅力を説明しながらチケット売り場まで導くのが営業の仕事である。
その説明に納得し、チケット購入(契約)してくれた人がお客様。そこではないと判断すれば、他の興味あるテーマパークを紹介する営業が続く。
もちろん手を抜いたりしない。
入場ゲートで「いってらっしゃい」と見送るだけでなく、入場したお客様が望めばテーマパークに出向きいっしょに過ごすこともある。
私の中の“お客様”の定義はこんな感じだ。


その後、先入観にとらわれずにいつものようにその“興味ある人”に接した。
物件を見る目は確かだし、条件も相場から外れていない。具体的な資金計画もしっかりしている。
また営業として、何ひとつ手を抜かず用意周到にすべてを進めてきた。
それなのに、進展しそうで進展しない“興味ある人”との商談はもどかしく1ヶ月が経過した。

(やはり、興味だけなのか・・・)

そう思いはじめた私は、その“興味ある人”が望む条件を満たした「これ以上のものはないだろう」という営業として最高の物件を探し出して商談に挑んだ。

しかし、いつものようにもどかしい商談で時間が過ぎていく。覚悟を持って切り出してみた。

「お客様の条件で、これ以上最適な物件はもうありません。」

ズバリ本音だ。それまでよりも少し強めの口調で話したことで、“興味ある人”の表情が少し揺らいだ。
さらに「これでダメなら、ずっと賃貸にお住まいになる方がいいです。」とまるで追い討ちをかけるような言葉がついつい口から出てしまい、自分でもビックリした。でも、それも本音だ。

少しの沈黙が続いた後に、“興味ある人”の重い口がようやく開く。

「うん・・・、わかったよ・・・」

観念したかのようなその言葉に引っ掛かるものを感じたが、“興味ある人”の決断を導き出し、お申込み手続きを済ませるところまでたどり着いた。
それは、営業として私の見る目が間違っていなかった証だ。


そして、私にとって“興味ある人”から“お客様”に変わる瞬間である契約の日を迎えた。
物件契約書を目の前にした“興味ある人”の表情はいつもと同じように冴えない。
それでも、契約書をひとつひとつ確認していくとサインと押印を済ませ、私にとっての“お客様”となった。

「契約って、もっと嬉しいものだと思っていました。」

そう語った“お客様”は、表情を変えず契約書をじっと見つめている。
ただ、商談や物件への不満といったものではなく、自分の心に語りかけている表情に見えた。


ちょっと心に引っ掛かるものがありながらも、他のお客様と同じように入居後も連絡を入れていた。
ある日、「ちょっと水回りをいじりたいんですけど。」という問い合わせがあり、業者の紹介を機に“お客様”のご自宅に伺うことになった。

“お客様”の私生活での表情は、あの頃の“興味ある人”の表情とは違っていた。
笑みをこぼしたり、熱意ある説明をしたり、水回りのことで業者と話している“お客様”からはご自宅への愛情が感じられるようになっていた。


“お客様”から“興味ある人”をご紹介
「お酒、お好きなんですか?」

そんな何気ない会話がきっかけとなり、現在の関係はとても良好だ。以前のような冴えない表情を見ることもない。

「契約の時、どうしてあんな言葉を?」

そんなことは聞くだけ野暮。営業として、やるべきことはすべてやり、間違いもなかった。
だから、契約することができた。その事実があればいい。
そう信じて過去のことに触れることなく“お客様”と酒を飲みに行き、何気ない会話と時間を楽しめる関係になった。

そして今では、この“お客様”から“興味ある人”をご紹介いただいている。

2017-07-03 17:48:23
かつて“ニワトリ”と呼ばれていた営業は、
“後輩”になる決意をしたことで二つのことを身につけました。
お客様から心許される存在になった営業のお話です。




お客様の決断をあと押しする最後の一言を口に出すのが苦手な営業らしくない営業の私は、
入社間もない頃にある上司からニワトリと呼ばれていた。
その頃の私は、上司からこんなアドバイスを受けていた。

「普段から細やかな気配りができないと、お客様のこと気付けないよ。」

商談テーブルを綺麗に拭いておくこと。吸い殻の残った灰皿は片付けること。
誰かが使用した資料でも片付けておくこと。整理整頓すること。
些細な身の回りに関するアドバイスばかり。当たり前のことばかり。

だが、タイミングが合わなかったり本当に忘れていたりした私は、上司にたびたび注意された。
「ニワトリくん!まただよ。」
物忘れが多かった私を上司はいつしかニワトリと呼ぶようになっていた。

でも、その上司にはいろんなところへ連れて行ってもらい、目をかけてくれていることは十分わかっていた。
だから、その上司からニワトリと呼ばれても、親しみが込められた愛称であることもわかっていた。
そんな上司に報いるために、頭で考えてもわかりづらいと思った私は演じてみることにした。

“地元の先輩を慕う後輩”

学生時代に経験した先輩と後輩の関係。
先輩がお気に入りにしたくなる“後輩”になろうと努力したところ、いつしかニワトリから卒業していた。


異動した先の先輩営業からは「準備をしっかりするように」とアドバイスされた。
はじめは先輩営業から怒られないために準備していたものが、ある日お客様と自分のためであることに気付いてからは、
誰にも負けない準備を心掛けるように変わった。

物件の調査から資料の作成まで抜かりない準備をするようになると説得力が増して、私を見るお客様の目が変わった。
そして、その頃にはもうひとつ大事な準備があることにも気付くようになった。
それは、“物件購入するお客様の心の準備”だった。
決断の後押しが苦手な営業なりに、お客様が安心して契約できるような準備が必要だと思うようになったからだ。



ある日、物件購入の予定はないが情報収集している段階というお客様のご自宅に伺ったときのこと。
お住まいが古い賃貸の建物であることに気付いた私は、建物の基礎を確認した。
“布基礎”と呼ばれる一般的な基礎だった。そして、基礎の間にコンクリートは入っていないようだった。
建物の強度にはなんの問題もなく、まだまだ住み続けることはできる。
しかし、コンクリートが入っていない布基礎は湿気がこもりやすかったり、シロアリが侵入したりすることもある。

「お心当たりはありませんか?」

雑談ではじまった会話からそう切り出してみると、お客様は「うん」と軽く頷き薄々気付いていたことを話してくれた。
布基礎についてわかりやすく丁寧に説明すると、少しずつ心を開いてくれたようで、まだ情報収集で止まっている理由や購入への悩みを打ち明けてくれた。

「ここまで話せたのは、あなたがはじめてですよ。」

少し晴れやかになったような表情を浮かべたお客様。
その日はそれ以上営業の仕事はせず用意してきた資料を残して帰ることにした。


翌日の朝一番、そのお客様から電話が入った。

「悩んでいたけど、賃貸契約の延長はやめます。物件、あなたから購入します。」

お客様のもとに残してきた資料の中には物件情報だけでなく、
住宅購入までの流れ・ローンシミュレーション・税金に関することなどがまとめられた、お客様向けの資料も一緒に収めておいた。
そのお客様は相談したいことはたくさんあったが、追い詰められるのではという不安からなかなか不動産営業には相談できなかったらしい。

「とってもわかりやすくて、私たちにはピッタリの資料でした。」

お客様向けの資料にじっくり目を通すことで、物件購入への決断ができたらしい。
まさに決断の後押しが苦手な営業の私に代わり、お客様が安心して契約できるような心の準備に役立ったのがお客様向けの資料だった。

上司や先輩営業からアドバイスされてきた“細心の気使い”と“完璧な準備”が、今では誰にも真似できない自分らしい営業スタイルを作り上げたと思っている。


先輩と後輩の関係が自分らしい営業スタイル
今ではお客様との関係を“地元の先輩を慕う後輩”というつもりで接している。
先輩に言われなくても動ける後輩。それが自分の営業スタイル。
そして、そのことが間違っていなかったと思える瞬間がある。

「あなただから決めたんですよ。」

契約の時にそう伝えてくださる先輩。
後輩は、そのたびに涙がこぼれそうになる。

2017-07-02 17:11:44
いくつもの偶然が重なると記憶に残るもの。
のちにお客様となる偶然の出会い。のちに契約する物件での偶然の出来事。
新人営業とお客様と物件を結びつけた“どんぐり”の縁は偶然だったのでしょうか。




「このお客様の担当を頼みますね。」

上司からそう告げられたのは、ハウスプラザのホームページを見たお客様の問い合わせ対応だった。
入社した年の7月。はじめて耳にした“担当”という響きに、恥ずかしさと嬉しさを感じた新人営業の私。
すぐさまお客様へ電話を入れると、とてもいい反応だった。

「すぐにでも物件情報がほしい。子供がいるので近場で探しているんです。」

最初の電話で住み替えの条件を聞き出すことができ、上司からアドバイスをいただきながら話を進めるとアポイントを取りつけた。

(わたしって、ラッキー!)

心の中でそう呟いくと同時に、この縁を大事にしようと思った。

初めて担当することになったお客様に会えるというワクワクとドキドキを胸に抱えながら、
お客様の条件に合う物件を探して資料作りに励んだ。前日には上司の最終チェックも無事完了。
準備万端で、アポイントの日を迎えた。



「はじめまして。でも、お会いしていました。」

お客様である男性は、少し驚いたような表情で挨拶してきた。
思いもよらぬ第一声に私は軽くパニック状態。
物件資料を抱えたまま、男性の発した言葉だけが私の頭の中を駆け巡っていた。

(えっ?いったい、どういうこと?思い出せない・・・)

そんな私の困った表情を汲み取った男性のお客様は「実はね・・・」と語りはじめた。

「どんぐり!あなたが、どんぐりを拾ってくれたんですよ。」

“どんぐり!”

その言葉を耳にしたとき、それまでモヤモヤしていた頭の中が一瞬にして綺麗に晴れ渡った。
張り詰めていた緊張が解け、ほっこりした雰囲気が少しずつお客様と私の距離を近づけていった。

(こんな偶然の縁があるんだ・・・)

はじめましてのつもりが、わずか数日前に別の場所で出会っていたのだ。
私がそう思ったように、ひょっとしたらお客様も同じことを感じて少し驚いていたのかもしれない。



そのお客様と最初に出会っていたのは、6月中旬の陽も落ちてきた現地販売会でのこと。
家路を急ぐ親子二人乗りの自転車が、現地販売会の物件前を通り過ぎようとしたときだった。

「あぁっ!」

自転車の後ろにちょこんと座った女の子が声をあげると、その声に気づいたお父さんはキーっと自転車を止めた。
大事な“どんぐり”を落としてしまった女の子は、後ろを振り返り少し焦った様子でそれを探していた。

その様子に気づいた私は、コロコロと転がった“どんぐり”を拾いあげ「しっかり握っておこうね」と女の子の手のひらに乗せた。

「ありがとう」と笑顔になった女の子。「ありがとうございます」と会釈したお父さん。
それ以上の会話もなく、再び自転車を走らせて去っていった。

私が不動産の営業であることやハウスプラザの看板が目に入っていないことは、
家路を急ぐお父さんの走り去っていく姿で想像できた。そんな記憶も商談を進めていくと少しずつ鮮明に蘇ってきた。



ご来店いただいたお客様のために用意していた物件資料には“どんぐりの物件”も入っていた。
条件に合う物件として用意していただけだから、偶然だ。でも、そのことに気づいていない。
お客様が資料から気になるいくつかの物件を選び出すと、ご夫婦とふたりの女の子のご家族を物件へ案内してまわった。

すべての内見を終えたお客様は、物件資料の中からひとつを私に差し出してこう伝えてきた。

「やっぱりここが一番いいですね!」

それは“どんぐりの物件”だった。お客様と私が最初に出会った物件だ。

お父さんだけでなく奥様やふたりの女の子のご家族みなさまがとても気に入ったという新しい家は
“どんぐりの物件”に決まり、私は初めて営業を担当したお客様から初めての物件契約をいただくことができた。



「最初に会ったのはここでしたよね。ずっと気になっていたんです。」

物件案内で訪れたときに、そう語った柔らかな口調と懐かしそうに嬉しそうに
“どんぐりの物件”を見上げている“お父さん”の横顔がとても印象的だった。



“どんぐり”からはじまった縁
現地販売会では近所の方々に声をかけたり、店舗の前を掃除しているときに「おはようございます」と挨拶したり、
常日頃から知らない人と接する準備ができたので“どんぐり”を拾うことも何気なくできたのかもしれない。

お客様がネットで物件探しを始めたタイミング
そして、ハウスプラザのホームページへたどり着いたこと
営業担当が私になったこと
私だから「はじめまして」じゃなかったこと
そして、お客様になる前に出会っていた物件が契約になったこと

女の子が落とした“どんぐり”からはじまり、いくつもの偶然が積み重なった初めての物件契約。

「不動産って、やっぱり縁ものなんだ。」

そう強く感じさせるできごとだった。

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