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2017-10-10 11:02:25
【泣ける住宅購入】放埓なお客様に向き合い続けた元かっこつけ営業マン
かつての“かっこつけ営業マン”が担当したのは、後輩が投げ出したお客様。
人間味のある接客を心がける営業担当が、“連絡が取れない”“期限までに返事がない”など
放埓なお客様に様々な思いを感じながらも成約に導いた営業のお話です。




入社以降、努力しなくてもノルマをこなす“できる新人営業”だった私は、営業を甘く考え天狗になっていた。
そんな私が3年目のスランプに陥ったとき、上司からの言葉が胸に刺さった。

「ここは上場企業じゃない。かっこつけてんじゃねぇの?」

確かにその頃の自分は、雰囲気をなごませるために天気の話や共通の話題を探すことが不毛に思え、物件を丁寧にプレゼンするだけの人間味のないクールを気取った“かっこつけ営業マン”になっていた。

上司の指摘に気づかされた私は、表情や感情が豊かな人間味のある接客を心掛けた。
お客様と子育てや趣味の話などをするようになり、以前なら不毛と思っていたトークが物件のプレゼンより熱が入ることも多くなった。

自分を表現できるようになった私は、まるで別人に見えたかもしれない。
上司や先輩だけでなく、困っている同僚や後輩といった周囲の人へ気使いができるようになった。
その年の忘年会、全社員の前で芸を披露する私の豹変ぶりに、周囲のビックリした表情を今でもハッキリ覚えている。

以前のような成績重視の売りたい願望が薄れ、お客様の立場に寄り添えるようになった私。
それからは、特別なことを一切しなくてもコンスタントにお客様と成約を続けられている。
ある年は、全社の年間トップセールスに輝いたこともあった。感情を表に出す人間味のある接客を心掛けているだけだ。そんな私に、あるお客様が巡ってきた。


とにかく連絡が取れないという理由で後輩営業がお手上げになったお客様。担当が変わることを伝えるためお客様の携帯に電話した。

(もう物件探しはしてないかな・・・後輩と同じように電話に出ないかも・・・)

そんなことを思いながら呼び出し音を鳴らし続けた。

「はい・・・」

さすがに知らない番号からの電話に出たお客様の第一声は怪訝そうだった。
営業担当が変わったことを伝え、物件を探し続けていることは確認できたが、お客様との会話の中から物件購入への熱が伝わってこないことが気になった。

タイミングがいい時だけ電話に出る。折り返しの電話は滅多にない。
いつも淡々とした言葉を返してくる。それでも諦めずにまた電話する。
かつての“かっこつけ営業マン”なら、購入の熱意が感じられないこのお客様を後輩と同じように投げ出していただろう。
粘り強く数回の通話を重ねた後に、希望に近い土地やモデルルームを案内することができた。最初の電話から約二週間後には申し込み。そこまでは順調だった。


購入申込書を記入している時に、お客様から要望があった。
それは“契約に必要な手付け金の段取りが出来たら連絡するので契約日は空白にしてほしい”というものだった。

(今晩・・・遅くとも明日には連絡がくるだろう・・・)

そう軽く考え「連絡をお待ちしています。」と伝えてお客様と別れたが、その甘い判断により何とも落ち着かない時間を過ごすことになる。

申し込みがおこなわれた当日は電話が鳴らず、その翌日も連絡が入らない。二度、三度と時間をあけて連絡したもののお客様は電話に出てくれない。
携帯電話だけでなく、ご自宅に電話して奥様に言付けもお願いしたが返信はない。

(興味が失せたのなら、それも仕方ない・・・)

そんな気持ちでお客様のご自宅に伺うことにした。ご主人が帰宅されていると思われる時間に伺ったが、応対してくれたのは奥様だった。
契約日の連絡を待っていることを伝えると、その翌日に「週末に契約します。」とたった一言の連絡がご主人から入った。


契約は無事に完了したが、更地に新居を建てて物件引き渡しまでの約半年間は同じように連絡が取れないことが続き、放埓さはさらに増していった。

電話よりメールでの連絡を好むお客様。住宅ローンの決済に関する大事な話もメールで済ませようとしたことには驚いた。
また、売主様と直接メールしていたことも判明。売主様から「注文多いし細かいお客様だね。」と聞かされ、苦笑いするしかなかった。

物件が完成して引き渡し後、他のお客様と同じように住み心地や様子を伺う連絡を何度か入れてみたが音信不通。
このお客様に限っては“連絡がないことは問題が起こっていないこと”と思うようにしている。



寄り添う営業を望まぬお客様もいる

人生の基点となる大きな買い物をするとき、ほとんどのお客様が悩みや不安を抱えている。
それを拭い去るのが私の仕事であり、そこにやりがいを感じる。

“お客様にとって、私は家を買うための雑務を処理する事務担当なのか?”

そんなことを考えさせられたこのお客様は、“私のやりがい”を望んでいなかったのだろう。
私にはちょっと物足りなさと寂しさを感じたが、「すべてのお客様が望んでいるわけじゃない。」と思えば自分もいい経験になったし、何よりも投げ出した後輩にもいい見本になったと思う。