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2018-07-12 14:09:29
【泣ける住宅購入】甘いケーキが思い出させたマイホームへの憧れ
夢叶わなかった家族への敗戦処理。
それが信頼となり、何度も紹介者を受けることに。
3年後に夢を実現した家族と“できる営業ではない”と自己評価する営業のお話




現地販売会に来場された4人家族のお客様は、駅から少し離れた場所にある喧騒とは無縁の立地をとても気に入ってくれた。
お子様の学区やご両親の仕事や通勤事情といった新居探しでよくある質問だけでなく、子育てや趣味など何気ない会話もいつも以上に盛り上がった。

職人系のご主人はクルマ通勤ということもあって周辺環境と間取りを新居選びの優先事項にあげ、ふたりのお子様は近所に公園があることをとても喜んだ。

「自分たちにピッタリの家が見つかったね。」

そう家族に語りかける奥様が一番盛り上がっていたのは間違いない。
新居の内装や壁材などを自由に選べるセミオーダー方式に奥様の夢は膨らみ、今までの苦労とマイホームに住めるという思いを何度も私に訴えかけてきた。

月々のローン返済も今の家賃を考えればなんとかなりそうな範囲ではあったが、大きなものを抱えることへの不安を覚えたのはご主人だった。“家族で話し合う時間をください”というご主人の意向で、申し込みは日を改めることになった。



数日後、“決めました”という連絡が入り、申し込みの手続きを済ませたところで、住宅ローンの融資が受けられないことが判明した。
独立したばかりのご主人に、金融機関は融資するにはまだ早いという判断を下した。夢を打ち砕かれたお客様の心情は、私には計り知れない辛さがあったはずだ。

「ここまでしていただいたのに、本当にすみません。」

私に向けられたご主人のその言葉は、かえって私に罪の深さを感じさせた。私という他人に自分たちの評価をさらけ出されたことを屈辱に思っていても何ら不思議ではない。

「こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした。」

ご主人の横で落ち込む奥様を見た私は、そんな言葉を返すのが精一杯だった。“営業マンとして、ドライに割り切れればいいのに・・・”とさえ思えた。



数日後、成約にならなかったこの件を締めくくるため、お客様の自宅に向かった。
引き渡しを終えたお客様にあいさつへ行くのはもちろん、私は申し訳ない気持ちを抱いたお客様にはより一層心を込めたアフターフォローを行う。お互い気持ちよく次に進むためにするそれを私は“千秋楽”と呼んでいる。
誰もが知るペコっとした女の子がキャラクターの街の洋菓子店で家族分のケーキを購入するのもいつものことだ。

平日の昼前ということもあり奥様以外は不在だったが、リビングへと招き入れてくれた。“お構いなく”という私の言葉を他所に、奥様は温かい紅茶と持参したケーキを“いただきものをすみません”と私に差し出してくれた。

「この味・・・、懐かしいですね。」

奥様は子供の頃に誕生日やクリスマスなどで食べ親しんだという味を思い出すと、懐かしそうに当時を振り返って話しはじめた。

「両親と姉の4人家族なんですけど、団地住まいだったから姉とずっと一緒の部屋だったんです。自分だけの部屋がある一軒家の友だちが羨ましくて。そうそう、おっきな犬も飼いたかったんです。」

そんな強い憧れがあったからこそ、ご主人よりも熱心に物件の説明に耳を傾け、購入できないと知った時には家族の誰よりも落胆していた。私は小1時間ほど奥様の諦めきれない思いを受け止め、紅茶だけをいただいてご自宅をあとにした。



それから3年間、ご主人の事業は順調で融資を受けられるようになり、ありがたくも私からマイホームを購入していただいた。
奥様は子供の頃の夢だった自分の部屋を持つことをふたりのお子様たちに与えることで叶えられると、引き渡しの時に喜んでいた。

そして、もうひとつの夢だった大きな犬が家族に加わったことを知ったのは、引き渡し後のあいさつで新居に伺った時だった。

「やっと夢が叶いました!」

リビングへ通されると、奥様の声がキッチンから聞こえた。“どうぞ、お構いなく”という私の声を遮る奥様は、3年前を振り返るように言葉を続け、再現するかのように温かい紅茶とあの店のケーキを運んできた。

「やっぱり美味しいですね。」

3年前は口にできなかったケーキ。私自身も子供の頃から食べ親しんだ味を懐かしみながら、これからの夢を奥様は聞かせてくれた。


自己評価は“できない営業”


お客様が新居を購入するまでの3年間に、知人や友人を何度も紹介してくれた。そのことの感謝を伝えると奥様はこう話してくれた。

「信頼できる不動産屋さんや営業マンを探すって大変ですよ。それに、買えなかった自分たちの話をちゃんと聞いてくれたじゃないですか。だから知り合いに紹介できたんです。」

私は“できる営業ではない”と自己評価を下げ、足元を見ながらコツコツやってきた。それが間違っていなかったとお客様に評価されたようで、背筋がピンとなった。