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2018-08-30 15:26:09
【泣ける住宅購入】ふとした閃きが招いた家族みんなに喜ばれる家
寒空の下、店頭の物件情報を眺めていたのはお客様のお母様。
案内中に閃いた物件を気に入った家族。 実家から少し離れた場所をなぜか地元と表現したお客様と新人営業のお話 社会人として初めて迎えた正月明けの1月初旬、ご高齢の女性が店頭に貼られた物件情報を眺めていた。やや身を縮めて寒そうにしていたので店内でゆっくり見てくださいと声をかけた。 「ありがとう。娘夫婦が探しているの。」 年始に家族が集まった時に、話題になったらしい。たまたま店の前を通り、その話を思い出したという女性は、孫娘さんの受験が落ち着いたら本格的に探しはじめるという。寒い中、足を止めさせたのは、娘さん家族を思うお母様の親心なのだろう。 やがて世間話となり、小一時間ほど経っていた。名刺を渡すと、女性は連絡先を残して帰っていった。その後は“焦らず、焦らせず”を心に決め、たまにお母様へ電話を入れて娘さん家族の物件探しの状況を伺いつつ、店舗に来た時と同じように世間話を繰り返した。 4月に入ったばかりの週末、お母様から電話が入った。 「今から、娘たちが行ってもいいですか?」 しばらく店で待っていると娘さん夫婦と2人の孫娘さんがやってきた。馴染みのあるエリアで奥様の通勤に便利な東京メトロかJRを最寄駅とする4LDK以上の物件を5件ほど探し出し、物件を案内するため葛飾区の東へ車を走らせた。ところが千葉県に近いJR線沿いのふたつの物件に、お客様の反応は今ひとつだった。 (何が良くなかったのだろうか。) そんなことを考えながらも不満を聞き出す話術を持ち合わせていなかった私は、ご夫婦の会話から情報を得ようと聞き漏らさないよう注意を払いながら東京メトロ沿線にある次の物件へ車を走らせた。 「へぇ、こんなにマンションが増えたんだぁ。」 「あのファミレス、懐かしいね。」 会話の内容は過去のご夫婦と縁を感じさせるもので、明らかに今までとは違う雰囲気を感じた。 (あっ!近くに物件があったはずだ。) 記憶の片隅で微かに放つ輝きをたどると、数日前に店長から店舗を上げて販売するように指示があった物件だった。ただ条件である交通機関が異なるため、店舗で探している時には思いつかなかった物件だった。 「この近くに新築4LDKの完成物件があります。希望沿線から外れますが、一応ご覧になられますか?」 そう声をかけると、“地元だしね”と言った奥様とそれに同調したご主人の反応は今までになくいいものだった。ただ、奥様の実家から離れている場所を地元と表現したことに疑問は残ったが、のちにお母様の話を聞いて納得した。 私鉄駅から徒歩8分ほどの場所にある4LDKの完成物件は、奥様のご実家まで徒歩で行けなくもない距離にあり、家の中を見学できたことで先に案内した更地の物件とは明らかに違う反応をみせた。 「私はこっちの日当たりのいい部屋。お姉ちゃんは昼間いないしあっちの部屋ね。」 「何であんたが先に決めてんのよ!」 自分の部屋を互いに主張し合う娘さんたちの様子も楽しそうだった。そして、玄関を入ってすぐのクローゼットを倉庫代わりに使えると自営業のご主人も満足そうに見学していた。奥様はやさしく笑みを浮かべ、楽しそうに家族に声をかけた。 「どう?いいよね?」 「うん。いいね。」 「十分満足だよ。」 「ここにしようよ。ここがいい!」 ご家族の会話が弾み、やや大きくなった声が響く空間からは、私の存在などすっかり消えていた。近い将来に何度も再現されるであろうマイホームでの団欒を私は透明人間にでもなって覗いているような気がした。 ふと閃いた物件を家族みんなが気に入り、それ以降の物件案内を取り止め、店に戻って申し込みの手続きに入った。 店長のフォローがあり契約や住宅ローンの決済も滞ることなく、無事に引き渡しを迎えた。 「若い営業さんが頑張ってくれたから、いい家に出会えました。ありがとうございます。」 ご主人からいただいた言葉は、お客様と物件を引き合わせる仲介を仕事とする私にとって最上級の評価だ。感慨に浸る私より、一層感慨深そうにしていたのは奥様だった。 「パパ、やっぱり地元っていいわね。」 新居を喜んだもうひとり 契約直後、娘さんをご紹介してくれたお母様のご自宅を訪ねた。感謝の気持ちを伝えると、それを上回らんばかりの勢いで気持ちを言葉にしてくれた。 「本当に決まってよかった。それもあなたが焦らずに辛抱強く待ってくれたからです。」 あの頃、他の不動産屋も当たってみたが電話や訪問でのセールスに耐えきれなくなって断りを入れたという。そして、もうひとつ気になっていたことを教えてくれた。 「20年ちょっと前に、あのふたりが新婚生活を送っていた場所なんですよ。新しい家もここから歩いて20分くらいでしょ?」 娘さん家族の新居が決まったことを一番喜んだのは、お母様だったのかもしれない。 |