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2018-09-13 14:33:29
【泣ける住宅購入】“自分たちの不動産屋さん”になったわたし
聴覚障がいをもつ男性からプロポーズされた女性。
感情を込めた筆談で打ち合せを行い、3度に渡って営業を頼った お客様と自分たちの不動産屋さんになった営業のお話 お客様から3度の架け橋役を担った。 最初の架け橋は、マンションの仲介。10年ほど前にふらりとお店の前に現れたおふたりは、とても親しげな落ち着いた雰囲気を醸し出す入籍前のカップルだった。 物件情報を眺めるカップルに声をかけると、先に反応したのはのちに奥様となる女性だった。そして、女性に二の腕を触れられて私に気付いた男性の耳には補聴器があった。 新居探しのために来店したカップル。聴覚に障がいをもつ男性がプロポーズをしたのは3ヶ月前のことだった。しかし、先に進む勇気が持てない男性と進展しないもどかしさを抱えた女性は、ともに過ぎていく時間に焦りを感じていた。そこで、新居でふたりの生活をスタートしようという話になったという。 それを私に話してくれたのは女性で、その内容を男性へ手話と筆談で伝えた。とりわけ女性の新居探しから人生を先に進めたいという思いを聞いた私は、是が非でも応えたかった。 女性による手話のサポートもあったが筆談を中心としたコミュニケーションは、想像以上に時間や手間といった労がかかるものだった。とくに専門用語を噛み砕きわかりやすく説明するのは大変だった。それでも、おふたりの希望する条件に見合うマンションが見つかり、数日後には契約へと話が進んでいった。それが最初の架け橋だった。 2つ目の架け橋は、おふたりの人生にとっては新居探し以上のとても重要なものだった。 新居となるマンションも決まり金融機関に住宅ローンの融資を申請すると、入籍後の住民票を提出することが条件となった。この事実を奥様となる女性に電話で伝えると、女性は強い願望を伝えてきた。 「住宅ローンの条件だから入籍をするのではなく、彼の意志で、彼の言葉で入籍したいんです。」 私もその意見には賛成だった。そして、次回の来店時に私から男性に問いただして欲しいと依頼を受けた。 その週末、契約の手続きを進めるため、おふたりにご来店いただき、男性の揺らぎない意志を確認することにした。 奥様 主人 家 家族 守る 務め 結婚 入籍 一枚の紙にこれらのワードを順に書き、下線を引いたり、丸で囲ったり、あえてなぐり書きにしてみたり、ワードとワードを線や矢印で結びつけたりと感情を筆談で伝えるのは、とても難しいものだった。 「奥様と生活するために家を買う。」 「家族と家を守るのが主人の務めです。」 「家族とは奥様と結婚すること。」 「そのスタートが入籍です。」 私はひとつひとつを口にしながら感情論の筆談を進め、男性は私のペンと筆跡を目で追い、女性はそれをじっと見守り続けた。 家・奥様 → 守る → 入籍 家・奥様 → 守れない → 別れ どっち? そう男性に筆談で伝え、私は婚姻届をそっと差し出した。すると、女性に手話で何かを伝えた男性はペンを手に取ると自分の意志で婚姻届に記入していった。その時にふたりが交わしたものが何かはわからなかったが、女性の幸せそうな表情がすべてを物語り、深々と頭を下げた男性からは“ありがとう”という言葉が私にはハッキリと聞こえた。 晴れてご夫婦となったおふたりは、ご主人の実家から15分ほど離れた場所のマンションで新婚生活を送りはじめた。それが2つ目の架け橋だった。 それから7年後、奥様から久しぶりに電話があり、3つ目の架け橋役を任された。その7年の間には、誕生日のお祝いメールと年賀状が毎年届き、旅行に行けばお土産を届けていただいたこともある。 古い家屋で暮らす足腰の弱ったご主人のご両親の元へは頻繁に通っており、義理のご両親と良い関係を築いていた。ならばいっそのこと、二世帯住宅を建て、より近くで生活をした方がお互いにとっていいのではないかとご夫婦で話がまとまったという。そこで、“ご両親の説得の場に私も同席して欲しい”というお願いの電話だった。私はもちろんそれを受け、約束の日時にご主人のご実家へ向かった。 マンション購入の際に一度お会いしていたが、あらためて奥様がご両親へ私を紹介した。 「自分たちの不動産屋さん。だから、安心してください。お義父さん、お義母さん。」 “自分たちの不動産屋さん!!” はじめて聞いた言葉だった。ここまで信頼してくださっているお客様とは、3つの架け橋役だけでなく、これからも関係が続くと思う。 なんでも相談します ご両親にも信頼していただき、仮住い先やトランクルーム、解体から施工、そしてマンションの売却まで、すべてを任された。その間、おふたりがお揃いの時はご自宅へ伺って打ち合せを行い、連絡は奥様の電話に入れた。 ある日、奥様からメールが入った。 「家のこととか関係なく、困ったらなんでも相談します。」 たまには気兼ねなく話せる相手も欲しくなるだろう。 |