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2019-01-24 14:48:30
【泣ける住宅購入】もう一度家族が集まるための家
それぞれが別々の生活を送っている4人家族。
もう一度家族が集まる家を探すお客様とそれが初契約となった新人営業のお話






転職から1ヶ月。他業種にいた私には、不動産の知識が不足していた。それを補うために私は、前職で培われた度胸でお客様へ積極的に声をかけまくった。下手な鉄砲も数撃てば当たるだろうと思ったからだ。

現場はもちろん、どんなところでも躊躇なく声をかけまくる私の姿に、先輩から「声かけの魔術師。いや、ナンパの魔術師だな!」と笑いながら揶揄されたこともあった。

「こんにちは。新築の家をご案内しています。ご覧になりませんか?」

現地販売現場の前を通りかかったご夫婦へいつもと同じように声をかけた。私の両親と同じくらい、おそらく60歳くらいのご夫婦だ。

「今すぐ探しているわけではありませんので。」

ご主人は内部の見学をやんわりと優しく断った。それでも、新築・中古・戸建て・マンションにとらわれず、近い将来的には都内に生活基盤を移したいと考えていることを聞き出せた。そして何よりも連絡先を教えていただけたのは大きな収穫だった。



週に一度くらいご主人に電話を入れ続けた。“近い将来に住宅購入する”という夢は、2ヶ月が経った頃には明確な購入意思へと変わっていった。ちょうどその頃、決算を控えた売主がキャンペーンを実施すると耳にした私は、このお客様の条件にぴったりの物件を探し出すことができた。

「条件にぴったりのオススメ物件が出ました。キャンペーン中なので今しか出会えない物件です。ご見学してみませんか?」

私は“それはぜひ!”と乗り気な返答を勝手にイメージしてご主人に電話したが、返ってきた言葉は期待していたものとは違った。

「そうですねぇ・・・。」

躊躇しているのか、戸惑いなのか。受話器から聞こえるご主人のトーンがすべてを物語っていた。それでも“とりあえず見学してみよう”と気持ちも固まり週末の見学が決まった。ご主人の心の動きは小さかったかもしれないが、私にとっては大きな前進だった。

約束の当日、お店にやってきたご夫婦を私の車に乗せて物件見学へ向かった。その道中、物件を紹介していくとご主人は何かに気づいたようで急に声を上げた。

「あっ!新築物件なんですね!?勘違いしてました!」

私は新築物件であることを伝え忘れていたのかもしれない。そして、2ヶ月で新築への思いは強くなったのだろう。中古と思い込んでいた物件が新築とわかった時、それまでと異なる反応を示したのはご主人だけではなかった。後部座席でリラックスしていた奥様は、背中を少し浮かせて前のめりになり、積極的に会話へ加わってくるようになった。



ご夫婦にはふたりのお子様がいる。社会人の娘さんと高校生の息子さんだ。娘さんは勤め先から近い都内に部屋を借り、息子さんは部活動に励むため学校の寮で生活をしていた。そして、都心で会社員として働く奥様も都内に部屋を借り、ご主人ひとりが都内から遠く離れた一軒家で生活を送っていた。

それぞれがそれぞれの生活を優先するために、異なった場所で別々の生活をする4人家族だった。そのため、家族4人の理想となるマイホームを探すのは簡単なことではなかった。出会った頃に教えてくれた“近い将来の住宅購入”にはそういう理由があり、私がそのことを知ったのは今見学している物件を見つけ出す数日前のことだった。

ご案内したのはデザイナーズ物件で、ひと目見てテンションが上がった奥様の様子は微笑ましかった。

「いやぁ。今の新築って、同じ間取りでもこんなに広いんだな。」
「明日にでも、ここで生活をはじめたくなりますね。」

ご夫婦がここに来るまでに想像していたのは、どんな物件だったのだろうか。どんな物件と比較しているのだろうか。知識や情報が少なかった新人営業の私には想像がつかなかった。

「これなら家族4人で暮らすには十分。そうだろ?」

そう語ったご主人に返した奥様の言葉は鮮烈で、私は衝撃を受けた。

「また同じ屋根の下で4人揃って生活できればいいですね、お父さん。」

そんなことは当たり前のことだと思っていた。でも、この家族のようにそれぞれの事情があって、それぞれ別々の生活を送っている家族がいる。

“もう一度、家族が集まるために家を買うんだ。”

私にとって初契約となったお客様には、そんな思いも込められていた。


ふたりのお子様


ご夫婦の気持ちは契約に向かっていた。それでも、お子様たちの意見も聞いてから決めたいという申し出があり、4人揃って物件見学を再び行った。

「すっごく素敵!この家からなら通えるし、この家がいい!」
「うん・・・。いいんじゃない・・・。広いし・・・。」

新しい家を見学した娘さんは奥様と同じようにテンションが上がり、息子さんはご主人と同じように平静を装った。

“離れて生活しているけど、やっぱり家族だな。”

私もこんな家庭を作りたいと心から思った。