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2019-04-12 15:28:43
【泣ける住宅購入】新人時代の会いたくないお客さま
新人営業ができることを自分なりに考え行動に移す。
それによって契約を決意したお客様と新人時代を振り返り行動に起こした営業マンの話 「新人は一生懸命な姿を前面に出せ!」 何もわからない新人営業に向けた上司の言葉だった。 “今の自分にできることって、いったいなんだろう・・・” 知識も経験もない私ができること。それは限られていたが、考えて導き出した答えは“物件を大切に扱うこと”だった。 “まずは掃除からだ!” 会社にあったホウキ・雑巾・バケツなどの掃除用具を自転車のカゴに詰め込み、初めて担当を任された物件に向かった。すでに申し込みをいただいていた物件だったが、思い入れのあるその物件を私は選んだ。 お客様に少しでもいい印象をもって貰いたい。そう思いながら、物件の外回りから2階建て4LDKの新築物件を隅々まで清掃した。完成したばかりの新築物件は、汚れた箇所など見当たるはずもない。それでも、外回りには風で運ばれてきた枯れ草があり、窓には風雨で薄っすら砂埃が付いていた。一見綺麗に見えた内部も、漂っていた埃や小さな木屑が床面に舞い降りていた。 薄汚れた雑巾とかき集めた屑。きっと誰も気付かないだろうけど、その分だけ綺麗に見えるはずと思えば、清々しい気持ちになった。 数日後、私にとって初契約となる日がやってきた。申し込みを終えた日、お客様をご自宅まで送る車中で「本当にいいのか!?予算オーバーだよなぁ。」と悩まれていたことをハッキリ覚えている。それが数日前に掃除した思い入れの強い物件のお客様だった。そして、そのお客様が来店された。 「あの物件、家族で話し合って『止めよう』かと・・・。」 お客様は来店早々、椅子に座るよりも前に私と店長へ話しかけてきた。初契約が流れると思った私は、全身から力が抜けていく瞬間を初めて味わった。 店長に促され席に着いたお客様は話を続けた。予算オーバーしてまで無理をする必要はないという一方で、物件は自分たちが思い描いていた理想にピッタリだった。無理と理想の葛藤は、前者が上回っていたものの諦めきれない気持ちもあった。家族で話し合ったお客様は、諦めきれない気持ちを断絶するために来店される数日前に物件を訪ねたらしい。 “最後に物件を見て、何も感じるものがなければ諦めよう” 自分たちにそう言い聞かせて物件へ近づいた時、小学生のご長男が物件の中に誰かがいることに気付いた。家の中にいた人物は私だった。あの日、掃除に集中していた私はお客様に気付かず、お客様は私に声を掛けるでもなくじっと外でその様子を眺め続けていたのだった。 「あれを見て決めましたよ。契約します。」 その言葉を聞いた私は、全身に力がみなぎってくる瞬間を初めて味わった。 それが私の初契約だった。その後も引き渡しまで担当として精一杯努めたものの、お客様にとっては新人営業では至らない点がいくつかあった。間違いがあってはいけないと多くを一旦持ち帰る慎重さを上司や先輩は評価してくれたが、お客様にとっては手際の悪さと写り、もどかしかったようだ。 お客様のそんな様子を感じ取った私は、顔を合わせにくくなる。観葉植物と洋菓子を持参した引き渡し後の挨拶が、最後の顔合わせとなった。 それから5年以上が過ぎ、私もトップセールスを取れるまでに成長できた。毎年入社してくる後輩たちをみては、当時の自分を振り返る余裕さえできた。そんな時、この体験談を社内で話す機会があり、やり残しがあったことに私は気付いた。 ある日の夕方、私はアポイントを取らずにお客様の自宅を訪ねた。インターホンで応対してくれたのは当時小学生だったご長男。次いで奥様が玄関先に出てきてくれた。 「おひさしぶりです。」 最初は私に気付かなかったが、名乗るとすぐに奥様は思い出してくれた。不具合はないかといった当たり障りのない会話から入り、契約当時の手際の悪さからご迷惑をかけたことを素直に詫びた。 「そういうこともありましたね。」 少し目尻が下がった奥様は、今だからと前置きをしつつ頼りなかった新人営業だった私の印象を話してくださった。 そんな私が当時の経験を活かしてトップセールスで表彰されるまでに成長したことを伝えると、少し耳が痛いことを言われてしまった。 「はじめてお会いした時より、太りましたね。」 口元を押さえた奥様の目尻は、限界まで下がっていた。 会いたくないお客さま またお伺いすることを伝えると、奥様から「ぜひ寄ってください。」という言葉とともに励ましの言葉をいただいた。 5年以上気にかけていたモヤモヤがスッキリと晴れ渡った。と同時に、“もう少し早く行っていれば・・・”という気持ちも芽生えた。 会いたくないお客様は、営業マンならば誰もがいるものだ。でも、やってみて思った。 “会いたくない人ほど、会いに行くべきだ” 忘れかけていた新人営業時代の新鮮な気持ち。それを、もう一度味わうことができるから。 |