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2019-05-02 14:53:52
【泣ける住宅購入】ひとつに絞り得たもの
マンションの売却と新築一戸建ての購入を綿密に計画するお客様。
大手デベロッパの担当営業とトラブルになり計画が頓挫しかけたお客様と信頼を勝ち得た新人営業のお話






「探してはいるんだけど・・・。」

幼子の手を引いた30歳くらいの男性は、現地販売する物件の外観を眺めながら私の問いかけに応じた。

“けど?”

そこが気になり男性に尋ねると、マンションの売却先が決定した後に新居を買いたいと教えてくれた。

“物件を購入していただくためには、まずマンションの売却だ!”

早速、私に売却を任せてほしい旨を伝えたが、男性はきっぱりと断った。

「もう3社にお願いしていますから。これ以上は増やしたくありません。」

そうですか・・・と、あっさり引く私ではない。数ヶ月の新人営業とはいえ苦い経験もしてきた私は“ここが勝負どころ!”と必死に食い下がった。電話を入れたり自宅を訪問したりとアプローチを続けると徐々に熱意は伝わっていった。

「熱い営業さんですね。仲介、よろしくお願いします。」

現地販売会で出会ってから一週間後、自宅マンションの仲介を任せていただけることが決まった。



それから一ヶ月後、ようやくマンションを見学したいというお客様を見つけ出した。

「買い手が見つかりましたので、マンションを見学させてください。」

喜ぶ男性の顔を頭に浮かべながら電話を入れたが、それは空想に終わった。

「決まっちゃったんですよ。ごめんなさい。」

2日前に大手デベロッパが買い手を見つけていた。もう少し早くその事実を確認していればという後悔もあったが、あとの祭りだ。ならば、まだ決まっていない新居の購入だけはなんとかお手伝いできないかと頭を切り替えた。



電話での交流が続き数日が過ぎた頃、マンションの売却はまだ契約が結ばれていない事実が判明した。その日を境に、男性は私に相談と愚痴を漏らす機会が増えた。多くはマンションの売却と新築物件の契約を同時に進める大手デベロッパの担当営業に関するものだった。

「新居の完成前にマンションを明け渡せって言うんだよ。」

マンションの明け渡しから大手デベロッパの物件完成までには少なく見積もっても一ヶ月のブランクがあった。新居への引っ越しと同時にマンションを明け渡すことを綿密に計画していた男性にとって、大手デベロッパ担当営業からの提案は受け入れられるものではなかった。マンションの買主に新居の完成まで引き渡しを延期するよう担当営業に交渉したものの“明け渡して欲しい”の一点張りだった。

悩む男性を見過ごせなかった私は、思い切って提案した。

「マンションの売却はそちらで、新居の方は私に任せてください。」

慎重に物事を進める男性だけに、考える時間が欲しいと言われると思ったが、即答で私の提案に乗ってきた。

「うん。実は他に気になっている物件があるんですよ。」

男性が打ち明けた物件は、私の担当する物件でも大手デベロッパの物件でもなく、男性がネットで見つけた新たな物件だった。

「すぐ見学しましょう!明日、行きませんか?」

唐突な私の提案に“えっ!?”と一瞬戸惑った男性も、一息入れると同意した。

「見学しないと話は前に進みませんからね。」

私はマンションの売却を諦めた。でも、その分の労力や時間を新築物件の提案に注げるようになったのだ。新人営業の私には相応だったのかもしれない。



翌日、男性が指名した物件の見学には、奥様と3人のお子様もいっしょだった。奥様は最新のシステムキッチンと水まわりに目を細め、お子様たちはマンションには無い家の中の階段をキャッキャと上り下りを何度も繰り返した。お気に召したと確信した私は、今回限りの特別な条件を提示した。

「そんなに?本当!?ちゃんと上司に確認取りました?」

売主様からいただいた特別な条件であり、上司にも了承を得ているものだった。

「ただ条件がありまして、それは『今日決めていただくこと』です。」

その言葉を聞いた男性と奥様はアイコンタクトを交わすと2・3度大きく頷き、店舗で詳しい話をすることに同意した。

数日後、契約を迎えた。

「一戸建てが買えるんだ・・・。」

奥様の目元には、薄っすらと光るものがあった。その意味を私がちゃんと理解したのは数日後のことだった。


信頼の証


“住宅ローンの審査が通らないかも・・・”

そのことはご夫婦もよく理解していた。上司の提言で、ハウスプラザと長い付き合いの金融機関で審査を行った。

「新築一戸建てを買えるなんて正直思っていませんでした。」

男性は資金計画の打ち合わせ中に、ぼそっと言葉を漏らした。自営業の男性はマンションを購入する際のローン審査で苦労した経験があり、新たな住宅ローンも厳しいことになると思っていたようだ。当時の苦労を思い出し、奥様は涙を浮かべていたのだった。

「新しいスマホ買ってもいいですか?」

住宅ローンの決済前、こんなことまで相談していただけた。それは信頼された証のようで嬉しかった。