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2017-12-07 14:47:35
親しい人が手に入れたもの。それが羨ましくなってしまった。
子供の頃に誰もが経験するそれに似ているかもしれない新居探し。 夢や理想と強いこだわりをもったお客様との長期にわたり物件を探した営業のお話。 新人の時、デザイナーズ物件を担当した。そのエリアにデザイナーズ物件が出るのは珍しく、角地に建っていたこともあり、とても見栄えのするものだった。 その存在感に惚れ込んだご夫婦が即決した。 地元に強いこだわりを持つ奥様にとって、そのデザイナーズ物件は優越感と幸福感が満足させるものだった。 親族や友人に幾度となく“自慢のマイホーム”を披露し、一番影響を受けたのは奥様の弟さん夫婦だった。 弟さんだけでなくその奥様も同じ地元。身内が叶えた夢のような現実に、若い夫婦は夢を大きく膨らませた。 “大好きな地元に自慢のマイホームを” 自慢のマイホームを手に入れたお姉さんにそんなことを伝えたのだろうか。 “紹介したい人がいる”と私のところに連絡が入ったのは、物件を引き渡してから1年ほどが過ぎた頃だった。 弟さん夫婦がお店にやってきた。新居を探しているお客様は目当ての物件を指名することが多いが、このお客様にはそれがなく、まずは希望や条件を確認する必要があった。 「お義姉さんの家。あんなステキな家がいい。」 そう語る奥様に強く同調するようご主人も頷き話を続けた。 「あと、地元!これは譲れないね。」 幸せそうなお姉さん夫婦に魅せられたのだろうか。“子供の頃、友だちが持っているものが羨ましくて自分も欲しくなる”まさにそんな感じ。若いご夫婦の夢はどんどん大きく膨らんでいく。 夢が膨らむ−−それはいいことだ。ただ、エリアが限られている上に、デザイナーズ物件はそうあるものではない。 見つかる物件は、若い夫婦の予算では厳しいものばかり。もちろんそのことは最初から正直に伝えていた。 “希望に近い物件が出たら連絡する”と伝え、その後は数回やりとりしたが進展することはなく、連絡が途絶えてしまった。 携帯電話が鳴り、そこにあった名前は5年ぶりに表示されたものだ。 「覚えていますか?また家探しをお願いしたいんです。」 もちろん覚えていた。珍しい名前だったこともあり、すぐに当時の商談内容も頭に浮かんできた。 後日、来店いただいたお客様は、地元から離れ、家族が増えていた。 子供の将来を考え、地元で暮らしたくなったという。あらためて探している物件の希望や条件を尋ねてみた。 「場所は地元。それと、デザイナーズ物件ってやつ?」 まったくブレていない。それでも少しは現実的になっていると思い、用意していた物件を資料で紹介した。 「コレは、場所が違う。」 「コッチは、デザイナーズじゃない。」 こだわりが強い。その後1年近くにわたり、いくつか希望に近い物件を紹介したが決め手となる物件はなく、ふたたび連絡が途絶えてしまった。 「見つけた!」 半年ぶりにお客様から電話が入った。自身で見つけたという物件は、現地販売用の看板を辿って行った先にあった。 その看板に“ハウスプラザ”と記されていたことから私に連絡をしてきた。決め手は“地元”だ。 別の店舗へ異動していた私は、お客様がこだわる“地元”エリアの担当から外れていたが現地でお客様と会うことになった。 今までに紹介した物件より見劣りする部分があり、知っていながらあえて紹介しなかった物件だった。ちょっと自責の念を抱えながら、久しぶりにお客様と会った。 「ふたりで話したんだけど、やっぱり“地元”だけは譲れなくって。」 半年で少し締まった身体つきになっていたご主人は、開口一番そう語り“地元”にこだわり物件を探し続けてきたという。 ふたりで探し出した物件は、間取り変更も多少の要望が叶えられ、内外装のカラーをアレンジできる。デザイナーズではないが今とても人気のあるものだ。 この半年の間に、医者から健康状態を指摘されたご主人は、仕事帰りに“ひと駅手前下車”を続けていた。 歩きながらいろんな家を見たご主人は、“自分たち家族にふさわしい家を探そう”と気持ちを固めたらしい。 「あれからふたりで物件を探して、自分たちが夢や理想ばかりの膨らんでいたことがわかりました。そんな自分たちにずっと付き合ってくれたあなたから買いたくって。」 そう語ったご主人とその横にいた奥様は、とても幸せそうな表情をしていた。 長かった家探しの終焉 引き渡しの時だった。 「長いこと、お世話になりました。これで終わりですね・・・。」 別れを惜しむかのように少し寂しそうな表情を浮かべたご主人に“何かあったらご連絡ください”といった旨を伝えると、すかさず奥様がひとこと続けた。 「何かって、問題がってこと?それはイヤね!」 年齢が近いこともあって、この家族とは特別な関係が今も続いている。
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