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2017-09-04 12:04:36
面倒は大嫌い。だけど頼られたら断れない・・・
そんな性格が親族間の問題にまで切り込んでいく。 「買わないなんて言わせない」と言い放ったのはなぜか。 お客様の人生を背負うつもりで接客する営業のお話です。 ある水曜日。会社は定休日だが、お客様が望めば休日出勤くらいなんてことはない。それが営業だ。 先日の日曜日、現地見学会に訪れた奥様が物件を気に入ってくれた。当然、ご主人にも見ていただかないと話は進まない。そこで、今日二度目の見学会を行うことになった。 一度見学を済ませている奥様がご主人に物件を説明する。この家での生活を思い浮かべているのだろうか。「いいね」とたまに振り返る幸せそうなご夫婦の空間から自分は少し距離をあけていた。 数日後、ご主人から「申し込みの手続きをしたい」という連絡が入った。アポイントは水曜日だ。 申し込み手続きまでの二週間は順調だったが、そこから契約への進展が見えずさらに二週間。奥様と出会ってからもう1ヶ月が経過している。何か問題でも起こったのだろうか。 電話をかけて軽く探りを入れると、物件購入という大きなものを背負うことの躊躇ではなさそうだ。条件面で悩んでいるわけでもない。購入への意欲は変わっていない。理由が知りたかった自分は、「すべて話したい」というご夫婦からの申し出によりご自宅で話を伺うことになった。 ドアを開けたご主人。「良くない話が出るな」と察知できる表情だった。 「物件の契約ですが、お断りしなくてはならなくなりました。本当にすみません。」 今まで嬉しそうに、幸せそうに物件を見学していたご夫婦。断りの理由を伺うと、ご主人の親御さんとの間で問題が起こったという。 ご主人曰く、親御さんの言い分はこうだ。 “家業を継がせたい親御さんは、長男夫婦がいつか帰ってくることを願っていた。親元で何不自由ない生活する方が幸せだろう。” それが遠く離れた東京に家を買えば、親御さんが描いていた未来予想図が崩れ去る。どうしても家を買うことを諦めさせたい親御さんは必死だ。片道3時間かけて伝えにきたというから相当だ。 「お前たちに、家なんて買えるわけがない。」 「ムリムリ。苦労するだけだ。」 エスカレートすると矛先は奥様に。 「あなたが言い出したんでしょ。」 「息子に無理させてない?」 「もうずいぶん実家に顔を出してないね。」 「孫の顔が見たいねぇ。」 物件購入とは関係ないこと、もっと酷なことも言われたという。辛辣な言葉を浴び、精神的に追い込まれた奥様は寝込んでしまった。奥様のそんな姿にいたたまれずご主人は家を諦めることにしたらしい。 「事情はわかりました。でも、それで解決しますか?誰が幸せになりますか?」 諦めようとしているご夫婦の姿に、自分の中のプライドと意地に火がついた。包み隠さず話してくれたご夫婦に、ここまできたら言いたいことを言わせてくれという気持ちで自分の理論をぶつけた。 「物件を諦めれば、問題は治る。でも、諦めさせられたことが根深く残り、親御さんとご夫婦の間に大きなシコリができる。シコリになるなら幸せになる方を選ぶべき。そして、奥様にシコリを作っちゃ駄目だ。ご主人と親御さんの間の揉めごとならば必ず元に戻る。血の繋がった親子だから。」 自分は、そう思っている。そして、もうひとこと付け加えた。 「買わないなんて言わせない。」 もし買わなかったら、誰も幸せにならない。必死に耐えてきた奥様と必死に奥様を守るご主人。ふたりには幸せになってほしかった。 しばらく下を向いて自分の考えを整理していたご主人が口を開いた。 「わかりました。ふたりの幸せのため、親との関係・・・」 ご主人の覚悟が見えた。でも、とんでもない勘違いにご主人の話を遮った。 「そういう考えで、買ってほしくない。家は幸せになるために買うもの。ふたりが幸せになれば、親御さんも喜ぶでしょ。だって、親だもの。子供の幸せを願うのが親の幸せじゃないですか。もし縁を切ったら、親の幸せを子供が奪うことになりますよ。」 熱意が伝わったのか、ご主人の涙腺が緩んだ。奥様を必死に守ろうとした男気のあるかっこいいご主人だ。 その後もプライドと意地に火がついたままの自分は、親御さんに会って説得してやると意気込んだが、さすがに断られた。 それから4日後の日曜日。物件契約にやってきたご夫婦の表情は、晴れ晴れとしていた。ご夫婦は自分たちの思いを伝えることができ、親御さんは描いていた未来予想図を捨てて、「困ったことがあったら、なんでも言いなさい。」とふたりの幸せを尊重してくれたそうだ。 面倒は嫌いだけど、やめられない。 自分は人が好きだ。お客様の人生を背負うつもりでやっている。 不動産営業でありながら、物件にはあまり興味がない。 興味あるのは、お客様の人生とその大きな転機。 頼られたら断れない性格だから、面倒なことの多い不動産営業がやめられない。
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