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2018-05-03 12:03:23
何をやっても上手くいかない営業マンが上司から指示されたのは、先輩から存在を聞いていた研修部屋に行くこと。
厳しい叱責や研修を覚悟して向かったそこで貴重な経験を得た営業マンの話




不動産仲介の営業をはじめて、もう10年近くなる。その間には、何をやってもうまくいかず結果が伴わない時期があった。周りの同僚や後輩がどんどん結果を出していくと、ひとり取り残されていく感じがして焦りも出はじめた。

結果を出し続ける周囲の視線。一度それが気になりだすと、どんどん卑屈な考え方になり、営業の基本である“足で稼ぐ”ことすら、正しいのか疑問に思えていた。朝起きて仕事へ行き、何をすべきか考える毎日が辛くなっていた。そんな時、私を見かねた上司から声がかかった。

「明日から本社の研修部屋に行きなさい。」

先輩から研修部屋の存在を聞いていたが、自分には縁のない場所だと思っていたし、その時はその存在さえ忘れていた。



研修部屋とは呼ばれていたが、そのような壁に囲まれた空間は存在していない。本社の社員を見守る役員席の並びに、研修員用のデスクとイスと電話があるだけだ。その役員の存在感とその席に座らなくてはならない営業マンの負のオーラは、三歩先にある本社社員たち空間とは明らかに違っていた。見えない壁に囲まれ、容易に踏み込めない空間だったことから、社員の間ではそこを“研修部屋”と呼んでいた。

私が研修部屋行きを告げられるまでに、すでに5〜6人の先輩が同じ経験をしていた。共通しているのは、実績をあげることができず“何かを見失った営業マン”ばかりだった。しかし、研修部屋へ行った先輩たちは、その後にひとりも退社することなく、それどころか同僚や後輩を引っ張る存在になっていた。とはいえ、いざ研修部屋行きを告げられると、常に役員の目にさらされ、きっと厳しい叱責や研修が待ち構えている“しごき部屋”なのだろうとイメージした。



「よろしくお願いいたします。」

役員に挨拶を終えると、厳しい研修がはじまると思っていたがそうではなかった。

「おっ!よろしく。」

一言返した役員は、そのまま日常業務を開始した。それだけだった。その後、何名かの上役に声をかけられたが、“しごき”どころか“研修”さえも行われることはなかった。研修部屋の初日は、終始無言でなんとも居心地の悪く、1日がとても長く感じられた。

次の日も、その次の日も研修は行われなかった。目の前にいる本社の社員は、仕事に励んでいる。そんな中でひとり何もせず、じっとしているのがとても苦痛に感じられ、過去のお客様に片っ端から電話をした。外に出たくて、ポスティングにも精を出した。それで結果が伴うとは思わなかったが、とにかくじっとしていることから解放されたかった。

その日の夜、営業No.2の本部長がやってきて、私に3つの物件を担当するよう与えてくれた。任せてくれたことがとにかく嬉しかった。感謝の気持ちと意欲を伝えようと立ち上がろうとした時だった。

「頑張らなくていいから。結果を出そうな。」

私の肩をポンっと叩くとその言葉だけを残して、本部長は研修部屋から離れていった。

私はすぐ行動に移し、ネット掲載の準備や資料の作成、夜中の3時まで現地販売の準備に励んだ。すると、その週末にはお客様から反響が得られ、その翌週にはご成約いただくことができた。



研修部屋に来てから二週間。お客様と向き合うこと、大事なことをきちんと伝えること、本当に当たり前だが営業の基本を取り戻すことができた。

自分で気付き、自分で考えて行動するという取り組む姿勢を見つめ直す場所が研修部屋だった。そして、気付くまでじっと見守ってくれたのは役員であり、そのタイミングを見計らって売りやすいいい物件を持ってきてくれたのが本部長だった。

今はもうなくなってしまった研修部屋。たった二週間のことだったが、とても大きな経験となり、今でもその当時の気持ちを忘れずに営業活動に励んでいる。


「会社は見捨てないよ。」


結果が出ていなかった時に感じた周囲の視線は、“営業のくせに何やってんだ。”という蔑視ではなく、見守られていたんだと気付くこともできた。

「会社は見捨てないよ。」

研修部屋で役員や本部長に言われた言葉が、今も忘れられない。

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