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2018-12-06 14:14:03
入籍前の若いカップルが家探し。
お客様と営業の垣根を越え、近所の友だちという関係を望んだお客様と
“証人”となった新人営業のお話






「結婚してなくても、家って買えるものなんですか?」

お客様からの質問で、若いご夫婦と思い込んでいたおふたりが結婚前のカップルであることを知った。お客様から問い合わせメールが入った翌日に実施した物件見学中のことだった。

答えはもちろん“イエス”だ。しかし、入籍していないおふたりの場合、住宅ローンの金利優遇が受けられない商品があることを合わせてお伝えした。

若いカップルのお客様は新人営業の私より年齢がひとつ上の24歳だった。年齢が近いことを知るとお客様は気を許してくれたようで、専門学生時代からの長い付き合いで、卒業と同時に就職のために九州から東京にふたり揃って出てきたことなどを聞かせてくれた。

私との主な会話のキャッチボール相手は饒舌な彼女さんだった。彼氏さんはその後ろに控え、ときどき彼女さんが捕り損ねたボールを拾い上げると私や彼女さんにやさしく投げ返して会話を成立させていった。

『どれもいい物件でしたよね。悩むなぁ・・・。オススメはどの物件ですか?』

帰り際の彼女さんの質問は、私を信頼してくれたことを意味していた。私は“お客様から問い合わせのあった最初に見学した物件”を迷うことなくオススメした。

その日の夕方、売主様にお客様へオススメした物件の状況を電話で確認すると数件の問い合わせと見学が入っていることを知った。私はその事実をお客様に電話で報告すると、お客様はすぐに行動へと移し、その日のうちに来店されるとそのまま申し込みをいただくことができた。



申し込みから二週間後、おふたりは契約のために来店された。電話で話したり資料をご自宅に届けたりして過ごした二週間は、私とお客様をより親しい関係へ築きあげるには十分な時間だった。

「ご結婚とか考えていないんですか?」

住宅ローンが気がかりだった私は、聞きづらかったデリケートなことをたずねた。ところがおふたりは怪訝そうにするわけでもなく、むしろ急に神妙な面持ちになりピンと背筋を伸ばした彼氏さんは彼女さんに視線を向けた。すると、何かを感じた彼女さんも同じように視線を向け、おふたりはゆっくりと顔と顔を向け合った。

「・・・しますか?結婚・・・。」

急な展開に退室しようとする私を、おふたりはそのまま話を聞いて欲しいと言った。仕切り直した彼氏さんのプロポーズに彼女さんが答えた。

『はい。しましょう、結婚・・・。』

私はプロポーズの証人となってしまった。



数日後、出勤の準備をしていた私の携帯電話が鳴った。

「今、会社ですか?今から行ってもいいですか?」

彼氏さんからの電話に、何事が起こったのか不安と焦りに襲われた私は急いで会社に向かい来店を待った。午前10時頃、来店されたおふたりは神妙な面持ちで一枚の紙を私の前に取り出した。婚姻届だった。

「証人になってください。」

そう言って頭を下げるおふたりに断る理由など何もなかった。

「本当に私でいいんですか?」

一応確認のためにたずねると、おふたりは揃って同じように頭を下げた。証人欄に記入を終えた私にご主人となる彼氏さんが話しかけてきた。

「実は・・・、契約を終えたあと、その足で役所に婚姻届を取りに向かったんですよ。翌々日の“いい夫婦の日”に入籍しようと思ったんですけど、戸籍謄本の取り寄せに時間がかかることを知らなくって。でも“いい節”になるから、今日11月24日もありかと急に思い立って・・・。」

気恥ずかしそうな彼氏さんが話を終えると、代わって奥様となる彼女さんが話しかけてきた。

『もうひとつお願いがあります。ご近所だし、今後のお付き合いもお願いしたいんです。』

そう言って頭を下げようとしたおふたりを私は制止した。

「本当に私でいいんですか?」

数分前と同じ光景を繰り返した私をおふたりは明るく笑ってくれた。


また、ふたり揃って頭を下げられた


それから1ヶ月も経たない年末、奥様が望んだ“今後のお付き合い”が実現した。

「今度の週末、ご飯食べに行きません?」

その日を境にそれまでお客様と営業の関係から、近所の友だちに近いものへと変わった。

お酒も進みほろ酔い状態になった頃、ご主人からいずれ挙げる式でのスピーチを依頼された。

「また、よろしくお願いします。」

そう言って頭を下げようとしたおふたりを私は制止した。

「いやいや!さすがにそれは無理っすよ。それだけはマジ勘弁してくださいって・・・。」

大勢の前でのスピーチほど苦手なものはないからだ。

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