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2018-03-15 16:29:29
待機児童問題により希望の物件を諦めざるをえなかったお客様。
偶然見つけた物件を内覧した帰りに、虹と幸せそうな家族を見たという営業の話 4〜5歳くらいの女の子を連れたご夫婦が現地販売会にやってきた。ネットで物件を知ったというご夫婦は、都内から30分ほど離れたある私鉄駅から徒歩数分の賃貸マンションで暮らしているという。 「お子様を育てる環境としては素晴らしいところですよね。」 私からの問いかけにうんうんと頷きながらも都内の物件を探している理由は“東日本大震災があったこと”と話してくれた。 「あの時、夫婦共働きでふたりとも職場が都内だったので、すぐに保育所へ娘を迎えに行けなくて・・・。」 そう語ったご主人が保育所へたどり着いたのは、明け方だったという。小学校の先生をしているご主人は、ご両親が迎えに来られない子供たちを目の前にして心が痛んだという。 奥様の職場からは2駅ほど。何かあれば駆けつけられる距離で探し続け、見つけ出したのが現地販売の物件だった。 ご夫婦はその物件をとても気に入っていたが、契約に至るまでにはもうひとつだけ大きなハードルがあった。それは娘さんを預ける保育施設だった。 ご夫婦は付近にある国が定めた認定保育所、都の基準で設けられた認証保育所を中心に“保育”という名のつく施設を片っ端から当たった。不動産仲介で保育所を探す経験は後にも先にもなかったが私は協力を惜しまず、奥様と一緒に施設を巡ったりもした。 しかし、待機児童の問題は想像以上のもので、国や自治体のサービスが受けられる施設はすべて欠員待ちという状態だった。ようやく無認可保育所を見つけ出したが、お客様の望む条件を満たすものではなかった。 「本当に、保育所探しまでしてもらったのにすみません。」 その数日後、お客様は待機児童の問題で現地販売の物件を諦めると連絡してきた。 しばらくして、そのご夫婦の近所まで行く別の要件ができたので“何か状況が変わっているかもしれない”と思いアポイントを取り伺ってみた。 10分程度だっただろうか。玄関先での立ち話ではあったが、職場近くで家と保育施設の両方を探し出すことの難しさに少し疲れ、理想の家探しは先に延ばして今通わせている保育環境を優先するという。 その帰り、車を走らせはじめると、ご夫婦のマンションから2区画くらい離れた場所に売り出し中の看板と建売物件が目に飛び込んできた。広さや立地は申し分なく、ご夫婦から聞いていた物件価格に十分おさまるものだった。直販物件だったがご夫婦に伝えたくなった私は、看板にあった連絡先をメモした。 「ご存知でした?いい物件がご近所にありましたよ。」 会社に戻ってからご夫婦に電話を入れてみると、都内で物件を探している頃に更地状態だったその物件を一度見に行ったという。 「私が交渉するので内覧しませんか?」 そう勧めると“一度検討する”と言って電話を切り、その数日後にご主人から私の仲介を条件に“見てみたい”という連絡が入った。数回の交渉の後に売主は条件を受け入れ、内覧と物件仲介が了承された。 内覧の日、ご夫婦と小さな女の子を迎えに上がり物件に向かおうとマンションを出た時、晴れてはいたが入道雲が発生していた。遠くから雷鳴も響いてくる。その音に臆病になり、ママにしがみつく小さな女の子が少し微笑ましかった。 物件の内覧をはじめてしばらくすると静まり返った室内に突然ザーッという雨音が聞こえてきた。にわか雨だった。 「でも明るいですね。」 雨が降っても光が差し込む明るい室内にご主人は感心し、奥様は広く使いやすそうなキッチンとその横にある小窓から入り込む日差しに心を奪われていた。その間、小さな女の子もお気に入りの場所を見つけていた。マンションにはない“家の中にある階段”を楽しそうに、昇ったり降りたりを何度も繰り返していた。 内覧を終え物件を出ると、雨は上がっていた。蒸してはいるが暑くはない。心地よい風を感じながらご自宅のマンションへ向かって歩きはじめた。 「あっ、ママ!」 小さな女の子が指差した東の空に虹が架かっていた。 「虹を見た人は、幸せになるんだよ。」 女の子にお母さんが教えていた。足を止め、虹を眺めながら会話をする3人を見て、私はスマホを取り出して声をかけた。 「一枚、撮ってもいいですか?」 西陽に照らされ少し眩しそうにした3人の背後に綺麗な虹が架かる幸せそうな家族写真を収めることができた。 フォトフレームに入ったあの日の写真 引き渡し後、挨拶に伺った時だった。 「娘を思えば、こちらで良かった。」 困難を抱え都内で物件を探す希望を叶えることはできなかったが、状況が変わったことを好意的に捉えたご主人の言葉が印象的だった。 奥様がこだわったという家具の上にはフォトフレームが並べられ、その中には“あの日の写真”も飾られていたのがとても嬉しかった。
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