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2018-04-13 17:11:13
新居への憧れが家族の誰よりも強かった奥様。
その気持ちがカタチとなって贈られた。
微笑ましい姿にあたたかい家族の絆を感じた営業のお話。




女性からの電話で物件探しをはじめたのは5年前の秋。希望条件からいくつか物件を提案すると女性は1軒を選び出し、数日後の物件見学にご主人と社会人の長男と専門学生の娘さんを連れ立ってきた。

もうひとり大学生の次男がいること、もう20年近く3DKの二階建て借家に暮らし続けていること、年収や借り入れ状況など契約に向けた話も進んだ。
ところが、あまり良くない日当たりと物件前の私道が狭く車の入出庫が難しいことを理由に商談は立ち消えた。
奥様や娘さんは友だちを招くことまで想像したほど本気度は高かっただけに、非常に残念そうだった。

それから1ヶ月後の平日午前、再び奥様から電話が入った。

「ハウスプラザさんの看板があるけど扱えますか?」

10棟建ての更地の物件は私の担当物件ではなかったが、その電話を切るとすぐに担当営業の了承を得て、物件資料を持って昼前にご自宅へ伺った。

「日当たりはどうでした?物件前の道は広かったですか?」

そんなことは物件資料で一目瞭然だが前回の二の舞を恐れた私は、すでに物件を確認していた奥様へ本気度を確認するために質問した。

「もちろん!大丈夫でしたよ。」

明るくハリのある奥様の声を聞いて私は安心した。

その週末、物件とモデルハウスの見学を行ったが、そこには前回と同じ次男以外の顔が揃った。“誘ったんですけど、学生なりに忙しいようで。”と一瞬だけ奥様の表情は曇ったが、その時以外は4人とも終始ご機嫌だった。

モデルハウスを見学している時の奥様は、まるで欲しいおもちゃを前にした子供のように瞳をキラキラと輝かせた。
そんな奥様に引き寄せられた娘さんもおもちゃ選びに加わり、ご主人と長男はふたりを眺め自然と頬が緩んだ。そんな、あたたかい家族の光景に私は胸を打たれた。


ご家族は物件をとても気に入り成約いただいたが、引き渡しまでの半年間で奥様の物件への思い入れはますます強くなっていった。

間取りや内装をお客様がセレクトできる物件だったこともあり、奥様は工務店との打ち合せを毎回楽しみにしていた。外壁から内装、ドアノブにいたるまで、そのほとんどを奥様ひとりで決めたという。

「自分の部屋は好きにさせてもらいましたけど。あとは全部お母さん。」

笑いながら教えてくれたのは娘さんだった。新居のことで毎日楽しそうなお母さんの姿が羨ましく、その姿を家族みんなが微笑ましく思い自然と会話が増えたことを着工前に教えてくれた。



奥様の新居への並々ならぬ思いがカタチになって現れたのは、引き渡しから二週間後の新居へあいさつに伺った時だった。
すでに娘さんは友だちを招いたこと、ご主人や長男は仕事から早く帰ってくるようになったと楽しそうに奥様は話した。そして居合わせた次男も自分だけの部屋をとても喜んでいた。

「趣味のものばかりですみません。ホント恥ずかしいんですけど・・・。」

帰り際、奥様から感謝の言葉とともにプレゼントをいただいた。リビングや各部屋の扉に飾られたものと同じ奥様手作りのリーフをモチーフにしたオブジェと一番の趣味という手作りの焼き菓子、そして1枚のDVDだった。

翌日、カバンの中に入ったままのDVDを思い出し、取り出すとそれをパソコンへ挿入した。コーヒーで湿らせた口に手作りの焼き菓子を運んだころ、かすかなBGMと映像が流れはじめた。

「ここが、新しい我が家です。」

奥様のナレーションと半年前の更地が映った。基礎工事や柱が立っていく様子、外壁の完成や引き渡し前の見学まで、我が家の成長記録が収められたDVDだった。
近所に住んでいた奥様は毎日のように通ったのだろう。雨の日や大雪が降った日の映像も含まれていた。

引き渡しのシーンが流れた後、BGMが聞き覚えのあるクラシックに切り替わった。映し出されたやや粗い映像は、借家の狭い部屋で幼い3兄弟が川の字で寝ている日常の写真だった。
すべて借家で撮られた3人の成長する様子が続き、引っ越し当日に撮った玄関前の家族写真が借家との別れのシーンとなった。

最後は新居の玄関前で同じ並びの家族写真。そして、引っ越しを祝ってバルコニーで楽しそうにビールを飲む家族の映像で締められた。

“子供が成長した借家と新居の成長”

奥様の思いが収められたDVDからあたたかい家族の絆を感じ、私は目元が潤んでいくのを必死に堪えた。


祝いや別れの席で耳にする曲


私は上司や同僚にもDVDを見てもらった。数年経った今でもたまに“あれ見ようか”と誰かが声をかけてくる。その誰かが教えてくれた。

曲のタイトルは、“パッヘルベルの「カノン」”

披露宴・卒業式・最期のお別れの席でよく耳にするこの曲。その度にDVDの映像が脳裏に浮かぶようになった。

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