<< 2018年7月 >>
記事カテゴリー
月間アーカイブ
|
1/1ページ
2018-07-20 10:45:38
テレアポで鍛え上げられた営業マンが時代の変化で失った達成感。
買ったばかりのマイホームを転勤で手放すことになったお客様とお客様から信頼と紹介者を得ることで失ったものを埋める営業のお話 「家に興味がない。まだ、買うつもりはない。」 そんなお客様に出会った時、身体の中にメラメラと燃え上がるものを感じていた。成約に結びつけた時の達成感は、他の何からも得られない心地よさがあったからだ。 私が不動産業界に飛び込んだのは今から15年以上前。 今のようにインターネットに物件情報は掲載されていなかった。ポステイング、看板、来店といったお客様の反響を待つ受動的な営業方法と、テレアポ、いわゆる電話勧誘で新規顧客を獲得する能動的な営業方法があり、後者はかなり精神的に辛いものだった。 突然の電話に、“興味がない”と断られるのは当然のことだ。99%はまともに話を聞いてくれず何度も心が折れた。それでも、電話からはじまり、物件を購入していただいたお客様はたくさんいた。 “家を買うことなど考えていなかった人に住宅を販売する” 他人の意識を変え、なおかつお客様に喜ばれた経験を積み重ねることで、私は不動産営業として鍛えあげられた。だから現在のように、ネットである程度の物件情報を得て、意識が高まったお客様を成約させることに何か満たされないものを感じている。時代が変わったのだからしょうがない。 そんなお客様の喜びを糧として仕事に励んでいた10年以上前に分譲マンションを購入していただいたお客様から電話が入った。 幼かったふたりのお子様も高校生と中学生になり、手狭になったマンションから新築一戸建てに買い換えていただいたのが半年前のことで、新居での生活がようやく少し落ち着きはじめた頃だった。 「今度、札幌に転勤することになったんだよね。」 家族揃って引越しを決意したので、賃貸物件を探してくれないかという相談だった。頼ってくれたお客様の力になりたかったが情報量が乏しく、現地の不動産屋を紹介することしかできなかった。 またしばらくするとそのお客様から電話が入った。お客様自身で変わりに住んでくれる知人を探そうとしたが心当たりがなく、今度は空き家となる我が家を賃貸にするか売却するかで迷っていた。 私が伝えたのは、遠く離れた地で我が家を気にかけた時、それが苦となりストレスとなるかどうかだった。愛する我が家を他人に賃貸することも想像以上に気疲れすることも合わせて伝えた。 「なるほど・・・。そうですよね。」 長い沈黙と深い呼吸のあとにお客様から出てきた言葉は、相談してよかったという感謝だった。 腹を決めたという連絡が入ったのはその翌日で、私に担当して欲しいと物件の売却を委託された。 わずか2〜3ヶ月しか生活していないその中古物件。実際に見たり触れたりできるだけでなく、ほのかに鼻を刺激する新築当時のヒバの香りがまだ残っていた。更地で売り出した当初から多数の問い合わせが寄せられた物件だけあって、中古物件であってもすぐに次の買い手が見つかった。 無事に委託された物件の売買を成立させ、お客様が最後の挨拶で来店された。契約書に目を通し押印したあと、私にとって一番忘れられないシーンがやってきた。 お客様は銀行のロゴが入った封筒をカバンから取り出し、クルリと向きを変えると封筒の頭に手を添えて私に向けた。その封筒を受け取ろうと私の両手が伸びた瞬間だった。 「ああ、やっぱり、あなたに仲介手数料を渡したくな・・・」 言い終わるより少しだけ早く伸びた私の指がしっかりと封筒の底を捕らえても、お客様の手がそこからしばらく離れることはなかった。 “手を離したら終わってしまう・・・” そう感じたお客様が、名残惜しそうに最後の時間を冗談交えて楽しんでいるようだった。 10数年ぶりに再会したお客様との半年ちょっとの濃密な関係がそんな思いにさせてくれたのだろう。私にとっては間違いなくそうだった。 しばらくして、転勤先の札幌にいるお客様から電話が入った。 「久しぶりです。マンションか戸建を探している社員がいるんだけど、札幌の物件を仲介できるかなぁ?」 冗談っぽく明るい感じの第一声を聞かせてくれたことが嬉しかった。そして、遠く離れた場所でも頼ってくれるお客様に出会えたことは、営業冥利に尽きると思っている。 つながる縁 失いかけた達成感から私を救ってくれたのは、お客様が新たなお客様を紹介してくれたことがきっかけだった。 札幌に転勤していったお客様も、10数年の間に何名かお客様を紹介してくださった。 今の私は、お客様に満足してもらい紹介者を得ることが何よりの喜びに変わった。 お客様からの紹介者が顧客となり、また新たな紹介者を得る。そんな数珠繋ぎとなりつつあるお客様に支えられて私の営業は成り立っていると言っても過言ではない。
1/1ページ
|