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2018-08-16 14:31:20
やっと探し出した物件に躊躇するお客様。
方角や風水に精通するお客様が、最後の決め手にしたものとは・・・。
掘り起こしで出会ったお客様と営業のお話




過去に家探しをしていたものの契約に至らなかったお客様がたくさんいる。その中には、たまたま価格やエリアといった条件が合わなかったり、当時のローン審査では通らなかったりしたが、今ならば状況が変わり条件やローンの審査に問題ないお客様もいる。そんなお客様を探し出し、もう一度アプローチをかけることを“掘り起こし”と呼んでいる。

掘り起こしたお客様を成約まで導くことは、決して高い確率ではない。すでに物件を購入していたり、そもそも物件購入意欲が失せていたり、不動産屋だとわかると無言で電話を切られることもある。ところが、まだ物件に巡り会えていないと興味を示してくれたお客様にたどり着けた。

今も物件を探し続けているというそのお客様には、物件との出会いを難しいものにする“方角”という厳しく狭い条件があった。占いを趣味にしている奥様は、風水や方位学にも精通していた。その他にも価格や小学校に通うお子様の学区問題などもあり、1ヶ月もすると提案できる物件は全滅した。“条件が合う物件が出たら連絡する”と約束したがそれに見合う物件は出ることなく、あいさつと世間話だけの電話を繰り返していた。


半年が経過したある日、奥様から突然連絡が入った。

「ピッタリの物件を見つけました。ハウスプラザさんで扱えますか?」

物件の場所を聞き出すと、すぐさま確認を行った。すると、その物件は売主直販で仲介のハウスプラザでは扱えないものだった。ただ、せっかくお客様が長年かけて見つけ出した物件を諦めたくなかった私は、一度は電話で断れた売主様へイチかバチかのアポなし直談判に打って出た。

「熱いねぇ。そういうの好きだよ。それにハウスプラザさんじゃ断れないよな。」

対応してくださったのは営業の責任者で、“城東で知らない同業者はいないよ”と弊社の役員の名を出した。その存在は絶大で、著書を差し上げることを引き換えに今回限りの特例として仲介をさせていただけることになった。


晴れて条件が整った物件にお客様を案内する日がやってきた。奥様とご主人、そして2人のお子様も一緒だ。価格、広さ、間取り、方角にこだわり、ずっと慎重に物件を探していた奥様もピッタリとはまった条件の家を目の前にすると、今まで抑えていたワクワクやときめきを一気に解放して誰よりも楽しそうに見学していた。ところが見学を終えて資金計画の話になると、いつものように慎重な面持ちに戻り、一歩前へ進む勇気が持てないようだった。

私がアポイントを取りはじめて半年。ずっと探し続けてきたマイホーム。返済を考えれば、40歳という年齢は決断を先送りできるものではない現実もあった。もちろんお客様本人もそのことは理解していた。

「こだわり続けた家。欲しかった家がやっと見つかったんですよね?」

上司のひと言がお客様の背中を押す。すると、今まで家探しに関して奥様が望むがまま、ずっと見守り続けていたご主人が合わせた。

「今までで一番いいじゃないか。よく見つけ出したね。」

それまで一切口を挟むことのなかったご主人の言葉で奥様は一歩前に進むことができた。

「そうですよね。やっと見つかったこんなに素敵な物件にはもう出会えないですよね。」

そう語った奥様の横でその決断を優しく受け止めたご主人は、お子様たちに“ここが新しい家になるんだ”と笑顔で話しかけていた。


一歩前に踏み出したお客様は、見学したその日のうちに申し込みを、その数日後には契約を結んだ。家探しの苦労と決断の重責から解放された奥様ではあったが、今ひとつ冴え切らない表情は以前と変わらなかった。就業時間が不規則なご主人は家事に協力的だったがそれにも限りがあり、必要な書類の多さと未だ現実のものとなっていないマイホームが奥様の日常生活に多少のストレスを与えたのかもしれない。ただそれも引き渡しを終え、新居での新しい生活がはじまると落ち着きを取り戻した。

あいさつに伺った時、奥様は明るい笑顔を見せてくれた。

「やっと落ち着きました。やっとはじまります。」

以前のように何かに委ねるのではなく、自分自身の強い意志がその瞳の奥から伝わるように変わっていた。


掘り起こしから宝物


生活感が現れはじめた新居へのあいさつを終えると、ひとり玄関先まで見送ってくれたご主人がそっと囁くように教えてくれた。

「家を買う時に背中を押してもらった言葉で少し目が覚めたようです。今ではテレビや雑誌の占いも見なくなりました。」

ご夫婦で相談や会話も増え、家の中が明るくなったととても喜んでいた。

お客様の人生に大きく関わることが多い不動産仲介のお仕事だが、このお客様との出来事は、私にとって掘り起こしで見つけた特別な宝物になった。

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