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2019-01-31 16:56:21
マンション購入とともに任された物件売却。
しかし、売却にはいくつもの問題があった。 思うようにいかない物件売却に苛立つお客様と困難に立ち向かった営業のお話 マンション購入の契約を控えた女性から相談があった。 「母と私が所有する賃貸物件があるんですけど、売却をお願いできますか?」 答えはもちろん“YES”だ。購入と売却。一粒で二度美味しいとはこのことだ。まさにラッキー!心の底からそう思った。 売却物件の登記簿には女性とお母さんの名前が記されており、ご本人の意思を確認するために私はすぐにお母さんのもとへ向かった。 「私の目の黒いうちは好き勝手させないよ。」 資産家のお母さんは気丈だ。それでも娘さんから説明を受け、納得したお母さんの表情は瞬く間に軟化した。 「あれ売って一緒に住むマンション買うのか。そうか、そうか・・・。」 ご高齢のお母さんは、賃貸収入を得ている物件の売却に同意した。その言葉を聞いてホッと安心したのは、私よりも娘さんである女性であったことは間違い無いだろう。 ところが、うまい話ほど簡単にはいかない。何となく感じていた受け答えのはっきりしないお母さんへの違和感。それを女性に尋ねると、お母さんには痴呆の症状があり診断されていたことを知らされた。知ってしまった以上、認知症の診断書と行政書士の面談がないと生前贈与ができないとアドバイスした。 「診断されたとはいえ、ちゃんとしっかり受け答えできています。面談なんて、そんなものは必要ありません!」 女性は行政書士との面談を完全に拒否した。法の手続きとして必要なアドバイスが女性の琴線に触れ、それ以降の女性は感情的になることが多くなった。電話やメールで済む内容も感情が昂ぶると応答がなくなってしまうため、私は納得いただくために足繁く女性の元へ通った。残業はもちろん休日を返上して向かい合い、信頼され融和な表情が見られるまでにはかなりの時間を費やした。 女性は感情的な部分ばかりでなく、不動産に関することや生前贈与に関することを知人やネットから情報を集め理解しようと努めていた。ときには間違った認識もあって、琴線に触れないように間違いを気付かせるのはとても骨が折れた。 売却しようとした物件にも問題があった。少し限度を超えた容積の建物と曖昧な越境線だった。建物については解体という手間をかければ済むことだが、越境問題はすべての隣人と調整し覚書の締結が必須だった。 幸い買取業者はすぐに見つかり、条件も破格と言えるものだった。私道を掘削する業者や測量士を手配し、費用を抑えたいというお客様の意向で業者に依頼せず私自身が隣人との覚書締結交渉を行った。東西南北、四軒のお宅に何度も足を運んだ。 「今後のためにも、この際だからやっておきましょう! 」 すべての隣人はそう答え、西・北・東と時計回りに進めた交渉は南側の隣人を残すだけ。ところが、南側隣人とは事前の口約束で承諾を得られていたが、行政書士が立ち会う当日になると180度異なる姿勢を示した。 「あの塀はうちのもの。時効よ。動かすことは考えない。」 法の知識がある誰かに相談したのだろう。20年という時効を主張してきた。こうなると売却は相当面倒なことになる。私は狭小住宅や越境問題に詳しい弁護士への相談を強くアドバイスしたが、お客様である女性と高齢のお母さんには違う考えがあり自ら弁護士を選定した。 「この際だから相続に詳しい弁護士を自分たちで探します!」 弁護士とはいえ、餅屋は餅屋。専門分野が細分化されていることを説明しても聞き入れてもらえない。それどころか、口を挟むなと言わんばかりの剣幕だった。確かにその通りだが、この問題は半年以上経っても並行向線のままとなり売却の話は棚上げになってしまった。 しばらくして、女性から電話が入った。 「母が成年後見人をたて、生前贈与することが決まりました!」 明るく弾んだ女性の声は今までに聞いたことがなかった。“私の目の黒いうちは好き勝手させない”と言っていたお母さんが、将来を考えて今できることをひとつずつ整理していく決心がついたという報告だった。 「本当に厳しくアドバイスしていただき、ありがとうございました。」 その後、女性にはマンションを購入していただいたが、売却契約は破棄となり負担した掘削や測量の経費は回収できなかった。 勉強代としてはちょっと高すぎたな・・・。 でも、それ以上の価値ある経験をしたことは間違いない。 信頼された証 「同じマンションに物件が出たら買いますので教えてください。」 そう伝えられていたが、私より先に情報を得た女性から連絡が入ったのは嬉しかった。営業として信頼された証だ。 私はいつもより少しだけ気持ちが入り、売主から少しだけいい条件を引き出すことができた。女性とお母さんが生活するマンションのひとつ階上には、弟さん家族が住んでいる。
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