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2018-03-29 12:25:20
現地販売にやってきた熟年夫婦。
娘さん夫婦の家探しからはじまった関係は、長男・次男の家探しまで。
10年以上に渡りお客様と信用を育んだ営業の話




10年以上前。ハウスプラザに入社して間もない頃。不動産のプロとはとても言えない私が上司の指示で現地販売を担当していると、そこに熟年のご夫婦がやってきた。

「こんにちは。」

そこからはじまった会話は何気ないもので、散歩途中の立ち話だろうと思い込み5分ほど話し込んでしまった。

「そろそろいい?」

旦那様の一言で、熟年のご夫婦はその建売物件を目当てにやってきたことに気付いた。

新人営業マンができる説明は拙さが随所に顔を出してしまうものだった。それでも熟年のご夫婦は、優しくすべてに耳を傾けてくれた。

「まだ小さい子供もいるしマンションよりこっちの方がいいな。」

旦那様のその言葉に、思わず“えっ!?”と声を漏らしてしまった。

「いやねぇ。私たちじゃないわよ。娘夫婦の家を探しているの。」

左手を口に当て、右手を私の肩にポンッと押し当てながら大笑いする奥様。その様子に、勘違いした自分が恥ずかしくなった。そんな私の様子に、旦那様も心を許してくれた。

転勤で地方にいる娘さん夫婦が半年後に東京に戻ってくること。15歳の女の子と10歳の男の子がいること。熟年夫婦は近所のご自宅で息子さんと自営業をしていることなどを聞かせてくれた。

数日後、休暇を利用して帰郷した娘さん家族を連れた熟年のご夫婦と物件で再会した。すでに物件の資料は熟年のご夫婦から娘さん家族に渡されており、最終確認のために物件見学したようなものだった。転勤前は近くの賃貸マンションで生活していたという娘さん夫婦。子供たちからも地元で生活できる喜びが伝わってきた。

「ふたりが希望した通りのいい家だろ?」

旦那様の言葉に娘さんをはじめご家族すべての頬が緩んだ。その後、娘さん夫婦には店舗までご足労いただき、契約まで話は進んだ。

ただ、資金計画や契約までのほとんどを上司に頼り切り、新人の私は何もできなかった。娘さん夫婦が上司の顔ばかりを見て話す様子が気にかかり、初契約を素直に喜べなかった。



娘さん夫婦の物件契約から5年が経過した頃、奥様から電話が入った。

「長男が結婚するので、家探しをお願いしたいの。」

エリア・間取り・価格などの細かい条件はなく、たった一言“娘さん夫婦の家と同じくらい”とだけ伝えてきた。電話を切ると私は長男夫婦が新婚生活をスタートさせるに相応しい物件探しに取り掛かり、その日の夜に物件資料を奥様のご自宅へお届けした。

「久しぶりねぇ。なんか頼もしくなったかな?」

それが外見的な変化を言ったものか営業としての成長を感じ取っていただけたのか、きっと両方の意味があったのだろう。

数日後、物件資料の中から長男夫婦によって選び出された物件を見学し、若いふたりはお気に入りの3階建て物件にめぐり合い契約を結ぶことができた。

「明るくていい家ね。お姉ちゃん、ねたんじゃうかも。」

物件を引き渡す時にそう語った奥様に、5年間の成長した姿をお見せできたことが嬉しかった。再びご依頼いただくというお客様の信頼に応えた結果、初契約の時から抱え続けた“重く引っ掛かるもの”を払拭できた。



それから3年後、奥様から携帯に着信が入った。

「今度は、次男なんだけど・・・。」

3度目のご依頼となるその電話で奥様は条件に触れなかった。“同じような物件ですよね?”と私から問うこともなく、同じように物件資料を整え、同じようにその日の夜にお届けした。

しかし、残念ながら次男夫婦の新居を契約に結びつけることはできなかった。次男夫婦が決断した物件は、自ら探し出した売主直売のものだった。

奥様は売主に私の仲介で購入することをお願いしてくれた。私も売主を訪れ、何度も頭を下げたが叶わなかった。私はその報告のため奥様のご自宅へ足を運んだ。

「承諾は得られませんでした。いい物件ですから売主さんと話を進めてください。」

そう伝えて帰ろうとした時だった。

「ごめんなさいね。」

今までに見たことのない奥様の表情。でも、それはほんの一瞬だけだった。

「次は孫娘かな。」

明るく笑いながら話す奥様は右手を私の肩にそっと触れた。その感触が初めて会った日の「いやねぇ。」と言った奥様の笑顔を映像のように目の前に浮かび上がらせ、あの初々しかった頃の自分を思い出させてくれた。


信用が一番なんだよ。


その後、知人が家を探しているとご連絡をいただいたことがあった。契約がまとまり、その報告のため熟年夫婦のご自宅に伺った時だった。

「うちも自営でしょ。やっぱり信用が一番なんだよ。」

ハウスプラザで営業を10年以上続けてきた今だから旦那様から私に向けられたその言葉に込められた意味の深さや重さも理解できる。

だからこそ、孫娘さんの物件探しを依頼されるその日を心待ちにしている。

2018-03-15 16:29:29
待機児童問題により希望の物件を諦めざるをえなかったお客様。
偶然見つけた物件を内覧した帰りに、虹と幸せそうな家族を見たという営業の話




4〜5歳くらいの女の子を連れたご夫婦が現地販売会にやってきた。ネットで物件を知ったというご夫婦は、都内から30分ほど離れたある私鉄駅から徒歩数分の賃貸マンションで暮らしているという。

「お子様を育てる環境としては素晴らしいところですよね。」

私からの問いかけにうんうんと頷きながらも都内の物件を探している理由は“東日本大震災があったこと”と話してくれた。

「あの時、夫婦共働きでふたりとも職場が都内だったので、すぐに保育所へ娘を迎えに行けなくて・・・。」

そう語ったご主人が保育所へたどり着いたのは、明け方だったという。小学校の先生をしているご主人は、ご両親が迎えに来られない子供たちを目の前にして心が痛んだという。

奥様の職場からは2駅ほど。何かあれば駆けつけられる距離で探し続け、見つけ出したのが現地販売の物件だった。



ご夫婦はその物件をとても気に入っていたが、契約に至るまでにはもうひとつだけ大きなハードルがあった。それは娘さんを預ける保育施設だった。

ご夫婦は付近にある国が定めた認定保育所、都の基準で設けられた認証保育所を中心に“保育”という名のつく施設を片っ端から当たった。不動産仲介で保育所を探す経験は後にも先にもなかったが私は協力を惜しまず、奥様と一緒に施設を巡ったりもした。

しかし、待機児童の問題は想像以上のもので、国や自治体のサービスが受けられる施設はすべて欠員待ちという状態だった。ようやく無認可保育所を見つけ出したが、お客様の望む条件を満たすものではなかった。

「本当に、保育所探しまでしてもらったのにすみません。」

その数日後、お客様は待機児童の問題で現地販売の物件を諦めると連絡してきた。



しばらくして、そのご夫婦の近所まで行く別の要件ができたので“何か状況が変わっているかもしれない”と思いアポイントを取り伺ってみた。

10分程度だっただろうか。玄関先での立ち話ではあったが、職場近くで家と保育施設の両方を探し出すことの難しさに少し疲れ、理想の家探しは先に延ばして今通わせている保育環境を優先するという。

その帰り、車を走らせはじめると、ご夫婦のマンションから2区画くらい離れた場所に売り出し中の看板と建売物件が目に飛び込んできた。広さや立地は申し分なく、ご夫婦から聞いていた物件価格に十分おさまるものだった。直販物件だったがご夫婦に伝えたくなった私は、看板にあった連絡先をメモした。

「ご存知でした?いい物件がご近所にありましたよ。」

会社に戻ってからご夫婦に電話を入れてみると、都内で物件を探している頃に更地状態だったその物件を一度見に行ったという。

「私が交渉するので内覧しませんか?」

そう勧めると“一度検討する”と言って電話を切り、その数日後にご主人から私の仲介を条件に“見てみたい”という連絡が入った。数回の交渉の後に売主は条件を受け入れ、内覧と物件仲介が了承された。



内覧の日、ご夫婦と小さな女の子を迎えに上がり物件に向かおうとマンションを出た時、晴れてはいたが入道雲が発生していた。遠くから雷鳴も響いてくる。その音に臆病になり、ママにしがみつく小さな女の子が少し微笑ましかった。

物件の内覧をはじめてしばらくすると静まり返った室内に突然ザーッという雨音が聞こえてきた。にわか雨だった。

「でも明るいですね。」

雨が降っても光が差し込む明るい室内にご主人は感心し、奥様は広く使いやすそうなキッチンとその横にある小窓から入り込む日差しに心を奪われていた。その間、小さな女の子もお気に入りの場所を見つけていた。マンションにはない“家の中にある階段”を楽しそうに、昇ったり降りたりを何度も繰り返していた。

内覧を終え物件を出ると、雨は上がっていた。蒸してはいるが暑くはない。心地よい風を感じながらご自宅のマンションへ向かって歩きはじめた。

「あっ、ママ!」

小さな女の子が指差した東の空に虹が架かっていた。

「虹を見た人は、幸せになるんだよ。」

女の子にお母さんが教えていた。足を止め、虹を眺めながら会話をする3人を見て、私はスマホを取り出して声をかけた。

「一枚、撮ってもいいですか?」

西陽に照らされ少し眩しそうにした3人の背後に綺麗な虹が架かる幸せそうな家族写真を収めることができた。


フォトフレームに入ったあの日の写真


引き渡し後、挨拶に伺った時だった。

「娘を思えば、こちらで良かった。」

困難を抱え都内で物件を探す希望を叶えることはできなかったが、状況が変わったことを好意的に捉えたご主人の言葉が印象的だった。

奥様がこだわったという家具の上にはフォトフレームが並べられ、その中には“あの日の写真”も飾られていたのがとても嬉しかった。

2018-03-09 10:35:07
「疑いから入っていますよ。」が第一声の慎重なご主人とマンション派の奥様。
その裏側に秘められたものを払拭した新築戸建と営業の話




春の訪れはまだ先の寒い時期。10棟建ての現地販売会にご夫婦が現れたのはすでに薄暗い16時ごろだった。

「疑いから入っています。」

それがお客様の第一声。少し近寄りがたい雰囲気を醸し出すが、私にとっては接客しやすいハッキリと意思表示をするお客様だった。

「疑問がありましたらそのまま持ち帰ったりせず、なんでも聞いてください。」

そう伝えて、ご夫婦に物件の案内を開始した。



外壁を貼り終えたばかりの物件を、資料をもとに間取りや方角、日当たりなどを一通り説明した。

「家探しで最初に見る物件なので・・・。」

“疑いから入る”とは慎重なことを意味しているのだとその時に理解した。そんなご主人からはほとんど質問がなかった。ただ、無言だったわけではなく、生まれたばかりの女の子を近所のマンションに住む奥様のご両親に預けてきたことや物件とは関係のない会話でコミュニケーションを深めていった。

「新居を買うなら、私がマンション派で、主人は戸建て派なんですよ。」

そう話した奥様は、生まれてからずっとマンションで生活してきたという。一方のご主人は、戸建ての実家で過ごし、その後はアパートやマンションで生活してきたという。

「どう思います?」

第三者の意見を聞いてみたかったのだろうか。あるいはご主人の意見だけで戸建てを選択したくない気持ちがどこかあったのだろうか。戸建てを仲介する営業にそれを尋ねてきたことが少しおかしかった。

子供は走り回り、泣き叫ぶのが当たり前。でも両隣だけでなく上下階の住人に迷惑をかける。子供をのびのび育てたかった私は迷わず戸建てを選んだ経験を伝えた。

「そうそう!」

奥様にも思い当たる節があったのだろう。“子供が出す生活騒音”が奥様をマンション派から戸建て派に引き寄せた。ゴミを出す場所は?管理費は?矢継ぎ早に質問する奥様をご主人が嗜めるほどだった。

気付けば19時。3時間も話し込むのは珍しい。翌週の来店を約束すると、ご夫婦は生まれたばかりの女の子が待つ奥様のご実家へ向かった。



翌週、店舗であらためて物件をプレゼンした。完成イメージ図で夢が膨らんだのは奥様だった。内装のイメージが奥様の好みにピタリとはまったらしい。

そんな奥様にブレーキをかけるのがご主人の役目だった。“これでは決めません”と語るご主人には他の物件を資料で説明し、先週見た物件の優れている点を説いた。10棟のうち半分は成約され、2〜3件の商談もまとまりつつあることも正直に伝えた。もちろん焦らせるものではないことを慎重派のご主人に伝えた。

「来週、もう一度見に行ってみます?」

その問いに、即座に反応したのはやはり奥様。でも、その反応に慎重派のご主人がブレーキをかけることもなかった。

現地で待ち合わせた二度目の見学。二週間でより完成に近づき階段が使えたのはいいタイミングだった。3階へ上がっていったご夫婦はしばらく降りてくる気配がなく、私は1階でふたりをじっと待つことにした。

30分ほど経っただろうか。階段からペタンペタンとリズミカルなスリッパの音が聞こえてきた。

「親にも見せたいので、来週も見られます?」

それも慎重派のご主人らしい親御さんへの配慮だった。



最初に現地販売に来場されてから三度目となる見学にはご夫婦それぞれのご両親の姿があった。

「2〜3日前に、あそこの窓つけていたよね。」

そう語ったのは近所に住む奥様のお父さんで、何度か足を運んでいたようだ。一方、ご主人のお父さんは、ビルの配線工事を請け負う職人さんの目線で物件をチェックした。

「木造は、こんな感じなんだ。へぇ。なるほどねぇ。」

小一時間ほどだっただろうか。それぞれが完成間近の新しい家を見学し終えると、ご主人にお父さんがひと言伝えた。

「契約みたいに面倒臭いのは任せた。俺は帰るからな。」

その言葉に奥様のご両親も頷いた。

「ねっ、戸建てもいいでしょ?」

マンション生活の長いご両親に問い掛けた奥様の横で、それまで常に慎重で緊張感の漂っていたご主人の表情が、今までにない安堵の表情に変わっていたのがとても印象的だった。


疑いと不安を抱いていたお客様


その後、契約から引渡しまで何事もなく経過した。それからしばらくして、ご主人から携帯に着信が入った。

「わかります?」

契約前とは違って“同じ人?”と思わせるくらい明るいトーンだった。役所に提出する書類に関する問い合わせだったが、話は少しそれていった。

「疑いから・・・なんて言ったと思うんですけど、不安もあったんです。あなたのことは最初から信用していましたから。」

そんなことをさらっと明るく言えるご主人。快適に生活している様子が伝わってきたのがとても嬉しかった。

2018-03-02 11:53:42
予定とは違う家が建築されていく稀な出来事。
それを目の当たりにしたお客様は信頼する一級建築士を同席させて交渉に挑んだ。
売主とお客様の問題を仲介した営業の話。




「一体、どういうこと!?」

そのひと言からはじまった電話がお客様から入った。契約を終えてひと月が経過した頃だ。基礎工事も終わりカタチをなしつつある家が、契約した建物の設計と異なっているのではないかと不安を覚えたようだ。

この物件の土地は仲介したが、建物に関してはお客様と売主である工務店の二者間で結ばれた契約。とはいえお客様を無下にできず、仲介としてお客様をサポートする約束をした。

お客様との電話を終え、売主である工務店の担当者へ電話で事実を確認すると驚きの言葉が返ってきた。

「設計士に確認したところ、設計のまま建築すれば高さ規制の制限を超えてしまうので・・・。お客様にはそれを伝えずに・・・。」

お客様の電話は本当だった。お客様にそれを伝えず施工を進めたことに呆然とした。しばらく続いた無言の状態に痺れを切らしたのは工務店の担当者だった。

「お客様とお話をさせてください。」

(それが最初だろ!)

心の中で突っ込みながら、その後2ヶ月間で10回以上に及ぶお客様と工務店の仲介を請け負うことになった。



お客様から電話があった週末、問題を起こした工務店へ足を運ぶことに理不尽さも感じつつ、お客様を車に乗せて工務店での打ち合せに向かった。

重い空気が張り詰め緊張感が漂う部屋で、工務店の営業担当者とその上司と設計担当者が待っていた。平身低頭に謝罪から切り出したのは営業担当者だった。

「説明を・・・」と上司に促され、設計士が口を開くと部屋の空気は最悪になった。“高さ規制は知らされておらず、問題発覚後もできる限りのことをした。”と語ったそれは説明ではなく、自らに責任はないという言い逃れに聞こえたからだ。当然ながら、お客様も声を荒げる。

「今すぐ壊せ!予定通りの家を建ててくれ!」

お客様と工務店の交渉は一進一退、静寂を挟んでそれを何度も繰り返した。その間の私はお客様のことを第一に思いながらも、あえて沈黙を貫いた。両者を同じテーブルに着かせるのも私の仕事。工務店とは会社としての付き合いが続く。そんな私ができたのは、当事者間の話し合いに仲介が口を挟まないという態度を工務店に示しつつ、お客様から求められれば口添えすることだった。

互いの主張で終わった最初の打ち合せ。その翌週の打ち合せに設計士の姿はなく、設計担当を変えた旨の説明があった。

「あっ、そう。」

まったく気にする素振りを見せず本題の交渉に入ったお客様が印象的だった。



制限ある高さの中で工務店は何度も設計に手を加えて提案するものの、お客様が首を縦に振ることはなく1ヶ月半が過ぎた。そんな状況を変えたのは、お客様が信頼する女性を打ち合せに同席させたことだった。

「はじめまして。ご依頼を受けまして、同席させていただきます。」

渡された名刺には“一級建築士”と記されていた。お客様が信頼する彼女は、設計の専門家という肩書きだけでなく、とても交渉バランスの感覚に優れていた。

建築士の立場から細部に至るお客様の要望を工務店に伝え、お客様にも妥協点をアドバイスする。お客様に寄り添いながら、出来る出来ないをハッキリと発言する姿に私は感心した。

「夏を迎える前に基礎工事をはじめた方がいいですよ。」

基礎を急速に乾燥させてしまう夏の強烈な日差しはいいものではないとお客様にアドバイスしたのも建築士の彼女だった。それは暗に決断を迫ったものだとのちに話してくれた。

最終的にお客様が納得したものは、高さ規制をクリアするために基礎を掘り下げ、当初の計画に近い家を建てるものだった。それも信頼する建築士の説明があったからだった。



最後の打ち合せから帰る車中、ずっと気になっていたことをご主人に尋ねた。

「途中で契約破棄を考えましたか?」

はじめはそれも考えたというご主人に、窓の外を眺めながら“うんうん”と何度も頷く奥様の姿がバックミラーに映った。

「妻や娘と時間をかけて話し合い、大きな問題に立ち向かうことで家族の絆を感じたんです。住んでもいないのに愛着が沸いていましたね。」

そう語るご主人も奥様と同じように反対側の窓の外を眺めていた。


大人の喧嘩と交渉術


「契約上は関係ないのに、最後まで面倒を見てくださって、ありがとうございました。」

引き渡しの日にお客様から声をかけられた。私にとっては貴重な経験だったことやいくつかの出来事で会話が盛り上がった。その中で最も印象深かった最初の打ち合せでお客様が声を荒げたことを懐かしい思い出のように伝えた。

「あれは威嚇じゃなく、大人の喧嘩。交渉術ですよ。」

ややハニカミながら答えたご主人がとても頼もしく見えた。

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