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2017-10-30 12:45:02
苦手なデスクワークで周囲を困らせることはしょっちゅう。
しかし、持ち前の明るさと愛嬌で、気付けばお客様の懐に入り込んでいる。 接客に憧れて転職してきた20代営業マンのお話。 入社してすぐ、上司から二通りの営業がいると教えて貰った。 “物件を丁寧に説明して契約を勝ち取る営業”と“世間話から信用を得て契約を勝ち取る営業”。 接客に憧れてガテン系から転職してきた私が望む営業スタイルはもちろん後者。 どちらのタイプであってもお客様との商談だけではなく、事務処理もこなすのがハウスプラザの営業。 “営業が売ってくれば誰かが事務処理をやってくれる”と間違った認識でこの世界に飛び込んだ。 デスクワークは苦手。たまにお客様を困らせてしまう。それでも、とにかく明るく元気に接客する。これが自分らしさだ。 こんな営業として未熟な私に特別な思い出を作ってくれたお客様との出会いは、入社から半年後の残暑が厳しい夏の終わりだった。 ずっと担当していた思い入れのある物件の現地見学会でそのお客様と出会った。 「また来ました。見学、いいですか?」 そう言って現地見学会にやってきた30代後半の男性は、1週間前にも見学に来たという。しかし、まったく記憶にない。これでは営業として失格だ。 「この周辺でお探しですか?」 思い出すきっかけを探るように尋ねると、前回は他の仲介業者の案内だったという。そこで軽く挨拶を交わしたご夫婦を思い出した。 奥様との見学で物件を気に入っていただけたのだろう。その男性はご両親を伴って二度目の見学にやってきた。 ご両親のチェックが入るのだろうか。物件購入の決意が固まっていると思い資金計画の打ち合わせを提案してみると、じっくり話を聞きたいという。 店舗までご足労いただき、上司と説明させていただくことになった。 店舗での商談が終わりお客様を見送ると、上司は“必ず買ってくださる”という確かなものを掴んだらしい。が、入社半年の私には掴めなかった。 “ゆっくり探している”というお客様は、熟考を重ねる慎重な方だった。 わずか1ヶ月の間に現地見学を3回。上司とお客様のご自宅へ伺うこと5回。他にも資料をお届けするなどでお客様の元へ通った。 初めは正座だったお客様のご自宅での商談も、足を崩して話せるまでの関係になった。 「もう少し漢字の勉強をしましょう!」 少し笑いながら私が作成した資料に目を通すお客様。苦笑いでその場をやりすごす私。その関係は、まるで“先生(お客様)”と“生徒(私)”のような感じだった。 やがて“先生”は“生徒”に悩みや不安だけでなく、決断を迷っている理由を打ち明けてくれた。 不動産のプロと認めてもらえたのだろうか。頼られている感じがして少し嬉しかった。 「価格・・・月々のローン返済が心配なんですよ。」 ご夫婦共に安定した職につくお客様は、しっかりと無理のない返済計画を立てていた。 そこで予算に見合う別の物件をいくつか紹介してみたが、お気に召すことはなかった。 「やっぱり、初めの物件がいいですね。」 この言葉を聞いた私は、売主様と交渉したり、お客様に合うローンが組める金融機関を探したり、できることに精一杯取り組んだ。 お客様の喜ぶ顔が見たくて転職したのだから、当たり前のことだ。 しかしながら、結果はお客様の想定していた月々の支払額を少しオーバーするものだった。 上司のアドバイスを受けながら、やれることはやり尽くした。 (またゼロから他の物件を提案しよう・・・) そんな覚悟でお客様に資金計画をお伝えした。明るさが取り柄だが、さすがに気が重い。 「ご面倒おかけしました。ありがとうございます。」 手渡した資料を眺めながらそう言ったお客様。 私はご夫婦で検討する時間が必要かと思い腰を上げようとした時だった。 「ここまで頑張ってくれたんですね。これなら家計のやりくりでなんとかなります。」 うんうんと頷きながら語ったご主人。何かを確認するように視線を交わすご夫婦は笑顔に変わった。 そして、気づけば私もいつも以上の笑顔になった。 引き渡しの日。 立ち会った上司と私は奥様からプレゼントをいただいた。 小さな箱には手作りのケーキが入っており、とても心のこもった手書きのカードが添えられていた。 “様々な方々が関わって建てられた家。私たち家族の新しいスタートをここで迎えられることを楽しみにしています。色々なことへの相談に丁寧に乗ってくださりありがとうございました。二人に出会えてよかった。二人から買うことができてよかったと心から思っています。” 憧れがカタチになった 私にとって思い入れのある物件を素敵なご夫婦に住んでいただけることになって、本当にうれしかった。 接客に憧れて転職した不動産営業。私が求めていたものがこのお客様でカタチになったこともうれしかった。 カードの最後には“遊びに来てください”と書いてあった。 そうだ!もうすぐ娘さんの2回目の誕生日だ。 プレゼントは何がいいかな。
2017-10-23 13:25:11
一つの土地を売主様から買主様へ橋渡しする仲介。
売主様がその土地を購入した目的と手放す理由。買主様が即決した理由。 すべては子供を思う親の気持ちが込められていた営業のお話。 新居となる物件の契約が取れた時、それまで住んでいた家の売却をお手伝いすることは珍しくない。 しかし、加えてもうひとつ不動産の売却を依頼されることは珍しい。 つまり新居の購入とふたつの不動産の売却ということだ。 「体調もあまり良くないし、娘夫婦の近所で息子と住みたい。」 そう語る年配の女性は、新居資金の足しにしたいと遠く離れた東北のとある町に所有する土地を“もうひとつの売却”として望んでいた。 土地勘のない遠く離れた物件を扱うことは想像以上に困難だ。 現地の不動産屋に電話で相談したがどこも門前払い。 きっと東京の不動産屋が絡んでいることが面倒臭かったのだろう。 頼まれたら断れない性格の自分だが、ひと月何も進展しないと引き受けたことを後悔するようになっていた。 やはり、遠方だからといって渋っていてはいけなかったと反省もした。 「現地を見てみるか!まずはそこからだな。」 アドバイスをくれた上司と現地へ行ってみることにした。 頼られた以上は覚悟を決め、最善を尽くした結果を売主様へ報告することが責任を全うすることであり自分のやるべきことだと思った。 日常の仕事を終え、22時ごろ上司とクルマでその土地へ向かった。 東北新幹線の停車駅がある開けた町に到着したのは午前3時。浅い睡眠から目覚めると外はどしゃ降り。 朝食を摂って9時過ぎに市役所で土地や所有者の確認を済ませると、依頼された土地へ向かった。 雨がひどかったので車内に上司を残して、更地状態の土地を確認しながら写真を撮っていた時だった。 「どうしました?」 お隣に住む女性が声を掛けてきた。雨の中、東京ナンバーの車が停まり、見ず知らずの男が何やら写真を撮っていれば不審がられても仕方ない。 「地主様に売却の依頼をされた者です。」 そう告げてしばらく立ち話をしていると、「雨も降っているし、ちょっと寄って行きなさい。」という言葉に甘えて、女性のご自宅に上らせていただくことになった。 東京のどこから来たの?車で来たの? そんな世間話がほとんどで隣の更地については、幼かった頃の娘や孫が遊び場にしていたという話や雑草が鬱蒼となれば虫やヘビなども住み着いてしまうし、何よりも見た目が良くないということで草むしりなどの手入れを続けてきたということくらいだった。 「うちで買いたいけど、おいくらなの?」 突然の申し出に少し驚いた私は、事前に調べた相場よりほんの少し高い金額を提示した。 ところが“隣接する100坪の更地”はとても魅力的だったようで、「その金額なら・・・」とふたつ返事で了承いただけた。 1ヶ月以上悩み続けたのはなんだったのだろうか。わずか30分もしないうちに買主様が見つかった。 出してくれた紅茶とケーキで世間話に華が咲くと、やがてお婆様が加わり、次に娘さん、そのお子様と輪が広がっていった。 4世代が同居するご家族だった。 「お昼食べていきなさいよ。」 そう勧められた時に車で待つ上司を思い出した。 とても温かい“おもてなし”に、気付けば1時間ほどお邪魔していたことになる。 車に戻った私は、上司に買主様が見つかったことを報告した。 すぐさま2人で現地の測量士や司法書士などを探し出して電話で作業を依頼した。 その晩に飲んだお酒は、最高に旨かったことは言うまでもない。 数日後、売主様のご自宅へ伺い、買主様が見つかったことを報告した。 「ありがとう。でも、寂しいですね・・・」 そう呟いた売主様の目には薄っすら光るものがあった。売主様にとって、とても思い入れのある土地だったという。 30年ほど前、娘と息子を連れて東京に出てきた売主様であるお母さんは、売却地からほど近い場所の出身だという。 長くその近隣で生活しており“息子の将来のために”と訳あって別れた旦那様と相談して購入していたのがその土地だった。 「あの場所を手放すと思うと、もう帰る場所がなくなって、いろんなものを失ってしまう感じがして・・・」 私に返せる言葉があるはずもなく、ただ黙って頷くだけだった。 半月後には測量も終わり、買主様との契約へと進んだ。事前の電話確認で、住宅ローンも問題ない。ふたたび、あの4世代のご家庭を訪ねた。 「隣はね、娘家族のために使おうと思っているの。」 買主様であるお母さんの目にも光るものがあった。 すべては息子のため。娘のため。 売主様と買主様はお隣同士ではあったが、ご挨拶をしたことがある程度の関係だったという。 しかし、ひとつの土地をめぐって、売主様と買主様それぞれの強い思いが伝わる商談に携わることができた。 一方は、息子の将来のために購入して、息子と同居するために手放す。 一方は、幼かった娘や孫が遊んでいた場所を娘家族のために購入する。 どちらも子供の将来を思う親の気持ちが伝わるものだった。
2017-10-17 09:27:53
お客様とは一定の距離を保ちたい普段は淡々とした営業担当。
そんな営業の口から出たひとことが、お客様の揺れ動く心を射止めたお話です。 犬を連れたご夫婦が現地見学会にやってきた。 犬の散歩コースで偶然見かけた売り出し物件が以前から気になっていたというお客様。すでに半年ほど新居を探しているという。 ゆったり余裕のある大きめな2階建て。吹き抜けがあったりキッチン周りがピアノ塗装を施されていたりと売主のこだわりをいたるところに感じられる物件だ。 その優雅な内装を見たご夫婦、とりわけ奥様は水廻りやキッチンをとても気に入られた様子だった。 現在の住まいから近い場所で探していたご夫婦。そのエリアにはあまり物件は出ない。 なによりも営業として、これ以上のオススメ物件は他にないと断言できるほどの良い物件だった。 それでも他の物件も見てみたいという理由で、すぐにお申し込みとはならなかった。 しかし、私が思ったとおり周辺エリアでお客様の希望に叶う物件は見つかることがなく、1ヶ月後には無事お申し込みしていただけることになった。 物件申込書を書いている時に、契約日は「忙しいので来週末に。」というお客様からの要望があった。 海外を飛び回ることもあり、遅い時間に帰宅する毎日が続いているらしい。 だが、1週間というのは頭の中を整理するには実に長すぎる。営業的に早く契約が欲しいというわけではなく、お客様の不安が増幅されたり新たな悩みが生まれたりするからだ。そんな私の不安は、的中することになる。 契約の当日。10時過ぎに、お客様から電話が入った。来店時間の変更連絡かと思ったが、そうではなかった。 「今日の契約、やめたいんです。」 申し訳なさそうに話すお客様。動揺を悟られまいとする私。 上司に相談した結果、理由を伺いたかったので店までご足労いただくことにした。 30分もするとご主人が一人で来店された。若かった私は営業担当ではあるものの、事情が事情なだけにその場は上司に任せることになった。 30分だろうか1時間だっただろうか。私は上司の横で、ただただ黙ってお客様と上司の会話を聞いていた。 先日、物件申込書を記入したその日以降、他社へ断りの連絡を入れたというお客様。そのうちの1社から、それまで紹介のなかった未公開物件でアプローチがあったという。 資料もできていない未公開物件はこんな感じだった。 “現在お住まいの場所から近い” “奥まってはいるが角地” “3階建て” “秘蔵の未公開物件” その物件場所を地図で確認したとき(あぁ、ここかぁ・・・)と心の中で呟いた。よく知っている場所だ。 「未公開中の未公開。お客様にはじめてご紹介する物件です。」 きっとそんな魅惑的なセールストークを告げられたのだろう。古い家屋の取り壊しも済んでいない、新しい物件の間取りも計画段階のものを秘蔵っぽく出してきたにちがいない。 なによりも、お客様を悩ませてしまった一番の原因は、契約までの一週間という時間だ。 上司はお客様の悩みを受け止めつつも、見学した物件との比較を説明しながら会話を進めていた。が、ついに私は黙って聞いていられなくなった。 「お客様には、こっちの家に住んで欲しいんです!」 心から出た言葉だった。秘蔵の未公開物件は私の住まいから目と鼻の先、まさに地元だった。 間取り・広さ・立地・周辺環境・治安など不動産屋の目を持っていれば、どちらにアドバンテージがあるかは明らかだった。 それと同時に、なぜかキッチンや水廻りに惚れ込んでいた奥様の表情が頭の中に浮かんできた。突然出た私の言葉には、お客様より上司が驚いていた。 「そうだよな・・・」 そうつぶやくと、お客様は腕を組み考え込んだ。しばらくすると意を決したのか、お客様は携帯電話を取り出してどこかに電話を入れた。 「やっぱり、あの2階建の物件を契約するよ。君が気に入っていた家だ。」 電話の向こう側が誰なのかすぐにわかる会話だった。あまり多くを語らずに電話を済ませると、お客様の求めですぐに契約書の作成に取り掛かった。 契約を済ませたお客様をお見送りすると、上司が私にひとこと言った。 「さっきの言葉、熱かったな。」 普段、淡々とした私からは想像できない熱い言葉に、上司は驚いたという。 「さぁ、昼飯行くぞ。」 気付けば、14時近くになっていた。 お客様のこころを動かした瞬間 自分はどちらかといえばお客様に深入りせず、一定の距離を保っていたいタイプだ。 それなのに、自分の言葉がお客様の心に届いたことに自身のことながら少し驚きもある。 その後、お客様とは特別なお付き合いはないが、近所ということもあり愛犬と散歩するご夫婦をお見かけすることがある。 その度に思うことがある。 「心から正しいと思うことは遠慮せずに伝えていこう。」
2017-10-10 11:02:25
かつての“かっこつけ営業マン”が担当したのは、後輩が投げ出したお客様。
人間味のある接客を心がける営業担当が、“連絡が取れない”“期限までに返事がない”など 放埓なお客様に様々な思いを感じながらも成約に導いた営業のお話です。 入社以降、努力しなくてもノルマをこなす“できる新人営業”だった私は、営業を甘く考え天狗になっていた。 そんな私が3年目のスランプに陥ったとき、上司からの言葉が胸に刺さった。 「ここは上場企業じゃない。かっこつけてんじゃねぇの?」 確かにその頃の自分は、雰囲気をなごませるために天気の話や共通の話題を探すことが不毛に思え、物件を丁寧にプレゼンするだけの人間味のないクールを気取った“かっこつけ営業マン”になっていた。 上司の指摘に気づかされた私は、表情や感情が豊かな人間味のある接客を心掛けた。 お客様と子育てや趣味の話などをするようになり、以前なら不毛と思っていたトークが物件のプレゼンより熱が入ることも多くなった。 自分を表現できるようになった私は、まるで別人に見えたかもしれない。 上司や先輩だけでなく、困っている同僚や後輩といった周囲の人へ気使いができるようになった。 その年の忘年会、全社員の前で芸を披露する私の豹変ぶりに、周囲のビックリした表情を今でもハッキリ覚えている。 以前のような成績重視の売りたい願望が薄れ、お客様の立場に寄り添えるようになった私。 それからは、特別なことを一切しなくてもコンスタントにお客様と成約を続けられている。 ある年は、全社の年間トップセールスに輝いたこともあった。感情を表に出す人間味のある接客を心掛けているだけだ。そんな私に、あるお客様が巡ってきた。 とにかく連絡が取れないという理由で後輩営業がお手上げになったお客様。担当が変わることを伝えるためお客様の携帯に電話した。 (もう物件探しはしてないかな・・・後輩と同じように電話に出ないかも・・・) そんなことを思いながら呼び出し音を鳴らし続けた。 「はい・・・」 さすがに知らない番号からの電話に出たお客様の第一声は怪訝そうだった。 営業担当が変わったことを伝え、物件を探し続けていることは確認できたが、お客様との会話の中から物件購入への熱が伝わってこないことが気になった。 タイミングがいい時だけ電話に出る。折り返しの電話は滅多にない。 いつも淡々とした言葉を返してくる。それでも諦めずにまた電話する。 かつての“かっこつけ営業マン”なら、購入の熱意が感じられないこのお客様を後輩と同じように投げ出していただろう。 粘り強く数回の通話を重ねた後に、希望に近い土地やモデルルームを案内することができた。最初の電話から約二週間後には申し込み。そこまでは順調だった。 購入申込書を記入している時に、お客様から要望があった。 それは“契約に必要な手付け金の段取りが出来たら連絡するので契約日は空白にしてほしい”というものだった。 (今晩・・・遅くとも明日には連絡がくるだろう・・・) そう軽く考え「連絡をお待ちしています。」と伝えてお客様と別れたが、その甘い判断により何とも落ち着かない時間を過ごすことになる。 申し込みがおこなわれた当日は電話が鳴らず、その翌日も連絡が入らない。二度、三度と時間をあけて連絡したもののお客様は電話に出てくれない。 携帯電話だけでなく、ご自宅に電話して奥様に言付けもお願いしたが返信はない。 (興味が失せたのなら、それも仕方ない・・・) そんな気持ちでお客様のご自宅に伺うことにした。ご主人が帰宅されていると思われる時間に伺ったが、応対してくれたのは奥様だった。 契約日の連絡を待っていることを伝えると、その翌日に「週末に契約します。」とたった一言の連絡がご主人から入った。 契約は無事に完了したが、更地に新居を建てて物件引き渡しまでの約半年間は同じように連絡が取れないことが続き、放埓さはさらに増していった。 電話よりメールでの連絡を好むお客様。住宅ローンの決済に関する大事な話もメールで済ませようとしたことには驚いた。 また、売主様と直接メールしていたことも判明。売主様から「注文多いし細かいお客様だね。」と聞かされ、苦笑いするしかなかった。 物件が完成して引き渡し後、他のお客様と同じように住み心地や様子を伺う連絡を何度か入れてみたが音信不通。 このお客様に限っては“連絡がないことは問題が起こっていないこと”と思うようにしている。 寄り添う営業を望まぬお客様もいる 人生の基点となる大きな買い物をするとき、ほとんどのお客様が悩みや不安を抱えている。 それを拭い去るのが私の仕事であり、そこにやりがいを感じる。 “お客様にとって、私は家を買うための雑務を処理する事務担当なのか?” そんなことを考えさせられたこのお客様は、“私のやりがい”を望んでいなかったのだろう。 私にはちょっと物足りなさと寂しさを感じたが、「すべてのお客様が望んでいるわけじゃない。」と思えば自分もいい経験になったし、何よりも投げ出した後輩にもいい見本になったと思う。
2017-10-02 19:49:48
ドライブデートの途中に立ち寄ったカップル
新居を探しているとは思えないファッションに誰もがそう見えてしまう。 見た目で判断されてきたお客様と見た目で判断しなかった営業のお話です。 8月の現地見学会でのこと。黒くて大きなアメリカ車に乗った二人組がふらっとやってきた。 「見れる?」 ぶっきらぼうに尋ねてきた男性の出で立ちは、タンクトップにショートパンツ。全身真っ黒に日焼けしてサングラス。 今でいうオラオラ系だ。いっしょにいる20代と思わしき女性もなかなか個性的なファッションだ。 誰がどう見てもドライブデートの途中に立ち寄ったカップルであり、夫婦ではないことが雰囲気でわかる。 そんなふたりを見た目で判断すれば、お客様となる可能性は“ゼロ”だ。でも、それは私のモットーとは異なる。 見た目には惑わされず、いつもと変わらない接客を心がけた。 カップルを物件の中に案内するとふたりの表情は一変する。楽しそうではあるが浮ついた会話ではなく、物件を見ている眼差しは真剣そのものだった。 聞けば、もう半年くらいドライブ中に気になる物件があると見学しているという。お互いに結婚の話もしているが、きっかけがわからずに一歩前に踏み出せないという。 そんなことまで聞かせてくれたので、私の結婚したきっかけなどを話すとカップルは耳を傾けてくれた。 その男性がひとりになった時にさりげなく尋ねてみると、新居の購入を結婚のきっかけにしたいという。 いっしょに来場した彼女とは少し年齢差があり、新居を購入することで彼女のご両親を安心させたいと考えていることまで話してくれた。 結局、その物件は希望の条件と離れているということで進展することはなかった。 「あんたに知り合えてよかったよ。また、よろしく。」 そう言って、カップルは大きな車で去っていった。 秋も深くなった11月のある日。その男性から電話が入った。それまでの約3ヶ月、何度か物件について電話で話すことはあったが、物件資料を求められたり案内したりすることもなかった。 だが、いつもの電話とは違って、いきなり本題から切り出してきた。 「おたくが紹介してくれた物件じゃないけど、扱える?」 それは他社が管理する物件だった。男性から伝えられた連絡先は、覚えのあるものだった。そこは直販物件を扱う不動産業社だ。 仲介が入り込めるか疑問だったが、ひとまず物件を確認するために電話をすることにした。 「当社の物件は直接販売だけであり、他社が仲介に入ることは無理です。」 そんな感じの返答だった。そもそも、その物件の見学会でお客様を担当した営業がおり、そこに他社の営業が仲介するのは道義に反しているではないかという。全くごもっともな話である。 そのことを男性に伝えると「わかった。」とひとこと言って電話を切った。しかし、数分後にその男性は再び電話をしてきた。 「向こうの会社と話ついたから。向こうの担当に電話して。」 少し強引な話だが、その男性は“ハウスプラザの私から気に入った物件を買いたい”と直接販売の不動産会社を押し切り、話をつけてくれていた。 どうやら、自分を客として接してこない不動産会社の営業担当が気に食わなかったので、その営業担当から直接買いたくない。 決して安くはない仲介料を私に払ってでも、きちんと向き合ってくれた私から気に入った物件を手に入れたいということだった。 その男性は、小さな貿易会社ではあるが営業・仕入れ・資金計画をひとりでこなす立派な会社員だった。 もちろん収入も信用もあり住宅ローンの審査も難なく通過するなど、契約から引き渡しまで問題が起こることはなかった。 「ちゃんと客として扱ってくれただろ。それに報いたかっただけだよ。」 物件申込書を記入しながらそう語った男性の人情深さは、そこで終わることはなかった。 物件の購入をきっかけに結婚したという奥様の妹さん夫婦が新居を探していると知れば、その男性は私を紹介してくれて契約することができた。知人や友人を紹介してくれたこともある。 今でも夫婦仲良くドライブデートしている。その途中に、現地見学会の私を見かけるたびに大きな声で呼びかけてくれる。 「元気してる?今度、友達連れてくるからよろしく頼むよ。」 蔑んだ目で見る営業もいた どんなに真剣に物件を探していても見た目で判断されてしまい、まともな商談にならなかった。どこか蔑んだ目で見ている・・・そんな印象の営業ばかりだったという。 そんな中で、お客様として真摯に応対したのは私だけだったらしい。 “人は見た目が9割”ともいうが、外見や身なりでお客様を判断しないという私なりのモットーが間違っていないことを証明してくれたお客様だった。
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