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2017-07-03 17:48:23
かつて“ニワトリ”と呼ばれていた営業は、
“後輩”になる決意をしたことで二つのことを身につけました。
お客様から心許される存在になった営業のお話です。




お客様の決断をあと押しする最後の一言を口に出すのが苦手な営業らしくない営業の私は、
入社間もない頃にある上司からニワトリと呼ばれていた。
その頃の私は、上司からこんなアドバイスを受けていた。

「普段から細やかな気配りができないと、お客様のこと気付けないよ。」

商談テーブルを綺麗に拭いておくこと。吸い殻の残った灰皿は片付けること。
誰かが使用した資料でも片付けておくこと。整理整頓すること。
些細な身の回りに関するアドバイスばかり。当たり前のことばかり。

だが、タイミングが合わなかったり本当に忘れていたりした私は、上司にたびたび注意された。
「ニワトリくん!まただよ。」
物忘れが多かった私を上司はいつしかニワトリと呼ぶようになっていた。

でも、その上司にはいろんなところへ連れて行ってもらい、目をかけてくれていることは十分わかっていた。
だから、その上司からニワトリと呼ばれても、親しみが込められた愛称であることもわかっていた。
そんな上司に報いるために、頭で考えてもわかりづらいと思った私は演じてみることにした。

“地元の先輩を慕う後輩”

学生時代に経験した先輩と後輩の関係。
先輩がお気に入りにしたくなる“後輩”になろうと努力したところ、いつしかニワトリから卒業していた。


異動した先の先輩営業からは「準備をしっかりするように」とアドバイスされた。
はじめは先輩営業から怒られないために準備していたものが、ある日お客様と自分のためであることに気付いてからは、
誰にも負けない準備を心掛けるように変わった。

物件の調査から資料の作成まで抜かりない準備をするようになると説得力が増して、私を見るお客様の目が変わった。
そして、その頃にはもうひとつ大事な準備があることにも気付くようになった。
それは、“物件購入するお客様の心の準備”だった。
決断の後押しが苦手な営業なりに、お客様が安心して契約できるような準備が必要だと思うようになったからだ。



ある日、物件購入の予定はないが情報収集している段階というお客様のご自宅に伺ったときのこと。
お住まいが古い賃貸の建物であることに気付いた私は、建物の基礎を確認した。
“布基礎”と呼ばれる一般的な基礎だった。そして、基礎の間にコンクリートは入っていないようだった。
建物の強度にはなんの問題もなく、まだまだ住み続けることはできる。
しかし、コンクリートが入っていない布基礎は湿気がこもりやすかったり、シロアリが侵入したりすることもある。

「お心当たりはありませんか?」

雑談ではじまった会話からそう切り出してみると、お客様は「うん」と軽く頷き薄々気付いていたことを話してくれた。
布基礎についてわかりやすく丁寧に説明すると、少しずつ心を開いてくれたようで、まだ情報収集で止まっている理由や購入への悩みを打ち明けてくれた。

「ここまで話せたのは、あなたがはじめてですよ。」

少し晴れやかになったような表情を浮かべたお客様。
その日はそれ以上営業の仕事はせず用意してきた資料を残して帰ることにした。


翌日の朝一番、そのお客様から電話が入った。

「悩んでいたけど、賃貸契約の延長はやめます。物件、あなたから購入します。」

お客様のもとに残してきた資料の中には物件情報だけでなく、
住宅購入までの流れ・ローンシミュレーション・税金に関することなどがまとめられた、お客様向けの資料も一緒に収めておいた。
そのお客様は相談したいことはたくさんあったが、追い詰められるのではという不安からなかなか不動産営業には相談できなかったらしい。

「とってもわかりやすくて、私たちにはピッタリの資料でした。」

お客様向けの資料にじっくり目を通すことで、物件購入への決断ができたらしい。
まさに決断の後押しが苦手な営業の私に代わり、お客様が安心して契約できるような心の準備に役立ったのがお客様向けの資料だった。

上司や先輩営業からアドバイスされてきた“細心の気使い”と“完璧な準備”が、今では誰にも真似できない自分らしい営業スタイルを作り上げたと思っている。


先輩と後輩の関係が自分らしい営業スタイル
今ではお客様との関係を“地元の先輩を慕う後輩”というつもりで接している。
先輩に言われなくても動ける後輩。それが自分の営業スタイル。
そして、そのことが間違っていなかったと思える瞬間がある。

「あなただから決めたんですよ。」

契約の時にそう伝えてくださる先輩。
後輩は、そのたびに涙がこぼれそうになる。

2017-07-02 17:11:44
いくつもの偶然が重なると記憶に残るもの。
のちにお客様となる偶然の出会い。のちに契約する物件での偶然の出来事。
新人営業とお客様と物件を結びつけた“どんぐり”の縁は偶然だったのでしょうか。




「このお客様の担当を頼みますね。」

上司からそう告げられたのは、ハウスプラザのホームページを見たお客様の問い合わせ対応だった。
入社した年の7月。はじめて耳にした“担当”という響きに、恥ずかしさと嬉しさを感じた新人営業の私。
すぐさまお客様へ電話を入れると、とてもいい反応だった。

「すぐにでも物件情報がほしい。子供がいるので近場で探しているんです。」

最初の電話で住み替えの条件を聞き出すことができ、上司からアドバイスをいただきながら話を進めるとアポイントを取りつけた。

(わたしって、ラッキー!)

心の中でそう呟いくと同時に、この縁を大事にしようと思った。

初めて担当することになったお客様に会えるというワクワクとドキドキを胸に抱えながら、
お客様の条件に合う物件を探して資料作りに励んだ。前日には上司の最終チェックも無事完了。
準備万端で、アポイントの日を迎えた。



「はじめまして。でも、お会いしていました。」

お客様である男性は、少し驚いたような表情で挨拶してきた。
思いもよらぬ第一声に私は軽くパニック状態。
物件資料を抱えたまま、男性の発した言葉だけが私の頭の中を駆け巡っていた。

(えっ?いったい、どういうこと?思い出せない・・・)

そんな私の困った表情を汲み取った男性のお客様は「実はね・・・」と語りはじめた。

「どんぐり!あなたが、どんぐりを拾ってくれたんですよ。」

“どんぐり!”

その言葉を耳にしたとき、それまでモヤモヤしていた頭の中が一瞬にして綺麗に晴れ渡った。
張り詰めていた緊張が解け、ほっこりした雰囲気が少しずつお客様と私の距離を近づけていった。

(こんな偶然の縁があるんだ・・・)

はじめましてのつもりが、わずか数日前に別の場所で出会っていたのだ。
私がそう思ったように、ひょっとしたらお客様も同じことを感じて少し驚いていたのかもしれない。



そのお客様と最初に出会っていたのは、6月中旬の陽も落ちてきた現地販売会でのこと。
家路を急ぐ親子二人乗りの自転車が、現地販売会の物件前を通り過ぎようとしたときだった。

「あぁっ!」

自転車の後ろにちょこんと座った女の子が声をあげると、その声に気づいたお父さんはキーっと自転車を止めた。
大事な“どんぐり”を落としてしまった女の子は、後ろを振り返り少し焦った様子でそれを探していた。

その様子に気づいた私は、コロコロと転がった“どんぐり”を拾いあげ「しっかり握っておこうね」と女の子の手のひらに乗せた。

「ありがとう」と笑顔になった女の子。「ありがとうございます」と会釈したお父さん。
それ以上の会話もなく、再び自転車を走らせて去っていった。

私が不動産の営業であることやハウスプラザの看板が目に入っていないことは、
家路を急ぐお父さんの走り去っていく姿で想像できた。そんな記憶も商談を進めていくと少しずつ鮮明に蘇ってきた。



ご来店いただいたお客様のために用意していた物件資料には“どんぐりの物件”も入っていた。
条件に合う物件として用意していただけだから、偶然だ。でも、そのことに気づいていない。
お客様が資料から気になるいくつかの物件を選び出すと、ご夫婦とふたりの女の子のご家族を物件へ案内してまわった。

すべての内見を終えたお客様は、物件資料の中からひとつを私に差し出してこう伝えてきた。

「やっぱりここが一番いいですね!」

それは“どんぐりの物件”だった。お客様と私が最初に出会った物件だ。

お父さんだけでなく奥様やふたりの女の子のご家族みなさまがとても気に入ったという新しい家は
“どんぐりの物件”に決まり、私は初めて営業を担当したお客様から初めての物件契約をいただくことができた。



「最初に会ったのはここでしたよね。ずっと気になっていたんです。」

物件案内で訪れたときに、そう語った柔らかな口調と懐かしそうに嬉しそうに
“どんぐりの物件”を見上げている“お父さん”の横顔がとても印象的だった。



“どんぐり”からはじまった縁
現地販売会では近所の方々に声をかけたり、店舗の前を掃除しているときに「おはようございます」と挨拶したり、
常日頃から知らない人と接する準備ができたので“どんぐり”を拾うことも何気なくできたのかもしれない。

お客様がネットで物件探しを始めたタイミング
そして、ハウスプラザのホームページへたどり着いたこと
営業担当が私になったこと
私だから「はじめまして」じゃなかったこと
そして、お客様になる前に出会っていた物件が契約になったこと

女の子が落とした“どんぐり”からはじまり、いくつもの偶然が積み重なった初めての物件契約。

「不動産って、やっぱり縁ものなんだ。」

そう強く感じさせるできごとだった。

2017-07-01 17:44:38
営業に責任はなくても、クレームは営業が受けるものです。
大きな問題に直面したとき、どう対処するか。
逃げたくなっても向かい合い、ふたたび契約に結び付けた営業の話です。




夏休み前の8月。家の引き渡しまであと1週間となった頃、いつものように実施したお客様との内覧会でのこと。
室内の確認も終わり最後に外周りを確認している時に、お客様が小さな違和感を私に伝えてきた。
「あれ?このポスト傾いてない?」
少し笑いも混じりながら伝えるお客様の指摘はその通りで、新築物件の前に立つポストの柱が傾いていることは誰の目にも明らかだった。
「本当ですね!直すよう言っておきます。」
その場で私は売主様へ連絡を入れ、引き渡しまでに修繕するよう伝えて内覧会は終わった。


予定通り完了した引き渡しの日から3日後のこと。お客様からクレームの電話が入った。
「今すぐ来い!!」
大変なことが起こっていると感じた私がすぐにお客様の家へ向かうと、とんでもない事実を聞かされた。
バルコニーで作業をしようとした時に違和感を覚えたお客様は、持っていた水平を測る“水準器”を使用したところ家が傾いていることが判明したという。
内覧会で気付いた小さな違和感は、ポストが傾いていたのではなく新築物件が傾いていたことを意味していた。
「あなたは、こんな家売ってんの?私たち家族はどうすんの!」
その強い口調からは怒り以上のものが感じられ、怖くてその場から逃げ出したかった。引き渡しからわずか数日の新築物件が傾いていたのだから当然のこと。
すぐさま売主にこの事実を伝えると「わかりました。すぐに買い戻しの方向で話を進めさせていただきます。」という答えが返ってきた。
売主が自らに非があることをすぐ認めたことに、安堵半分と不安半分と気持ちに違和を感じたことが今でもハッキリと蘇ってくる。
その日から夏休みを返上して連日お客様の元へ通い売主の調査に立ち会うと5日目に売主が買い戻すことで一件落着になった。
しかし、それでお客様の気持ちが治まるはずがないこともわかっていた。


お客様は以前のお住まいに戻り、引き続き物件を探しているようだった。
ちょうどその頃、不信感しかないであろう私になぜかたびたび電話してくるようになっていた。
夜遅い時間でも休日でも、逃げたくなる気持ちを抑えてそのお客様からの電話だけは出るようにしていた。

「あんな物件を売りつけて・・・」とチクチク胸を刺されるような内容から再び始まったお客様との電話のやりとりは、やがて少しずつ変化していった。


客:「こんな物件あるんだけど、どう思う?」
私:「いいと思いますよ。」

客:「あっちの業者、大丈夫かなぁ?」
私:「その業者なら心配いりませんよ。」

客:「あの家、外壁剥がして柱だけになっていたね。」
私:「はい。綺麗にやっているみたいですね。」


営業としては失格かもしれないけど、もう関わることはないだろうと高を括っていた私は、相槌を打つように、そして不動産に携わる者の見地として言葉少なめだが、素直な気持ちを伝えるようにしていた。


「あの家、綺麗に建て直したね。」
そんな会話から始まったいつもの電話だった。が、次に出てきたお客様の言葉に私は耳を疑った。
「もう一回、あの家見せてくれない?」
お客様が、あの傾いた新築物件にまだ興味があったことに驚かされた。
もちろんお断りできるはずもなく、その電話で内覧の日程を調整した。

内覧の日、修繕した箇所だけでなく隅から隅まで持参した“水準器”を当てて確認していたお客様。

「うん・・・うん・・・綺麗に直ったね。」
ひとつずつ確かめるように頷きながら、最後に笑顔で私にこう言った。
「嫁さん、連れてくるから。いいよね?」
それから数日後、お客様は綺麗になったあの新築物件にふたたび入居することが決定した。


3ヶ月間見守り続けていたお客様
「嫁さんと話したんだけど、やっぱりこの家がいいんだよ。」
お客様は“うんうん”と何度も頷きながら、そう話してくれた。
そして私からふたたび同じ新築物件を契約する時に、お客様はこんなことも話してくれた。
退居してからの約3ヶ月間、綺麗に修繕されていく姿をずっと見守っていたこと。
そして、不信感を抱いた営業担当の私が電話に出続けたこと。
それに誠意を感じ、同じ物件を買い戻すことに不安が無くなったこと。
それからずいぶん時間が経過したけど、そのお客様からは今でも呼び出しの電話が鳴る。

「ゴルフに行くぞ!」って。

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